心理状態の評価法は

貝谷久宣
和楽会心療内科神経科赤坂クリニック
和楽会なごやメンタルクリニック


山中学
和楽会心療内科神経科赤坂クリニック
東京大学附属病院分院心療内科


村岡理子
和楽会なごやメンタルクリニック
早稲田大学大学院人間科学研究科

臨床医 Vol.26 No.4:93-95,2000

 熟達した専門医は診察室に入ったときの患者の表情で大よその病状がわかるといわれている.表情は不安そうではないか,困惑していないか,緊張していないか(不安障害),表情に生気はあるか,打ちひしがれていないか,絶望していないか(大うつ病),声は小さいか,大きいか,声にはりはあるか,話す言葉の抑揚はしっかりしているか,自発的に話すか,話によどみはないか,寡言か多弁か,等々を一瞬のうちに読みとるものである.

 さて,内科医を訪れる患者の中には,身体症状を訴えるが,実は精神的な問題が主題であることがかなり多い.その代表的なものが,仮面うつ病や不安障害である.また,葛藤やその他のストレス因子が存在し,心理的要因が関連していると判断される場合も少なからず認められる(身体表現性障害).患者は一般にこころの問題を自ら述べることを好まない.それとなく水を向け,心理社会的問題に関与していくことが必要である.ここでは,内科医がしばしば直面する不安障害や感情障害が存在する可能性をチェックするための,診察前にできる自己記入式の精神状態の評価法を紹介する.

東大式エゴグラム1)

 交流分析の創始者エリック バーン(Berne E)の弟子のデュッセイ(Dusay JM)が考案したもので,人格特性を理解するための検査である.その時点でどんな行動パターンをとっているかを知るよい指標となり,患者が訴える精神症状の基盤を成している社会心理的状況を理解するのに有用である.この検査の結果は病状の同復とともに変化する.検査は,CP(批判的な親の自我状態)・NP(養育的親の自我状態)・A(大人の自我状態)・FC(自由気ままな子供の自我状態)・AC(順応した子供の自我状態)の5つの尺度からなっている.エゴグラムはこれら5つの自我状態同士の関係と,外部に放出している心的エネルギーの量を評価し,それをグラフで表したものである. に5つの自我状態の現れ方を示す.

 各尺度の高低によりある人格特性を理解することが可能である.Aを頂点とする山型を示す人は不安障害や心身症になり難いパターンであるし,反対にAを底辺とする谷型を示す人は葛藤をもち,精神身体症状を示すことが多い.また,Aが高くFが低いN型を示す人はワークホーリックタイプでうつ病や心身症を示しやすい.また,Aの代わりにNPが高いN型を示す人は他人配慮的でうつ病になりやすい.うつ状態や対人恐怖の人は,CP・A・ACが高いW型を示すことが多い.

 どの心理検査でもいえることであるが,自分から望んでやった検査以外は,被験者の受験態度が問題になる.妥当性尺度(L)が4点以上の場合は応答態度に問題があり,信頼性は乏しい.また,疑問尺度が35点以上の「どちらでもない」を多く答えた被験者では判断を保留する必要がある.

CMI2)

 コーネルメディカルインデックス Cornell Medical Index ―― health questionnair(CMI)は,コーネル大学のBrodman, ErdmannおよびWolffら(1955)によって,患者の精神面と身体面の両方にわたる自覚症状を,比較的短時間のうちに調査することを目的として考案され,実地臨床での問診の補助として,精神的問題点が関与する程度を知る一助として,スクリーニングに広く使用されている.

 CMIの質問項目は身体的項目と精神的項目の2つに大別される.各身体器官別の質問(A〜L)と情緒面の質問(M〜R)とが,合計で男子は211項目,女子は213項目からなっている.これら項目の特徴は,臨床医が初診の患者に尋ねる症状を,広範岡に,詳細に記述している点にある.

 CMIの結果は,自覚症プロフィールによる判定と,深町による不安障害判別基準,および9個の特定の精神的自覚症項目による精神的不健康状態の判定,の3つの方法によって検討する.

自覚症状プロフィールによる判定
 項目別の得点を記入することによって,項目別自覚症の訴え率(%)のプロフィールが容易に作成できる.これによって,患者の自覚症状の把握が可能である.

深町の不安障害判別基準
 深町は,C(心臓脈管系),I(疲労度),J(疾病に対する関心)の各項目における身体的訴えの数と,M(不適応),N(抑うつ),O(不安),P(過敏),Q(怒り),R(緊張)の各項目における精神的訴え総数とにおいて,不安障害群と心理的正常群に有意差があることを見出した.これらの項目の得点を統計処理し,領域T〜Wに判別図を作成した .領域がTに近いほど心理的には正常で,領域Wに近いほど,不安障害の可能性が高い.金久と深町(1983)は,領域V,Wに入る患者を不安障害と判定すれば,男子では外来診断による不安障害の78%,女子では72%が判別できるとしている.

特定の精神的自覚症項目による不安障害の判定
 自覚症プロフィールの右下段に記載されている9つの特定事項については,抑うつ不安障害やうつ病を診断するときに目安となる.入院歴(本人・家族),不安障害既往歴がある場合,不安障害判定基準で領域がT,Uであっても,注意が必要である.また,強迫観念や恐怖症についてもスクリーニング可能である.これらの項目は,あくまでもスクリーニングとして有効であり,その後の問診などで,詳細を問うことが必喪である.

 
・CMl適用の限界
 質問項目の中にテストの妥当性を判断するための項目が特別に設定されていないので,患者が故意に操作する可能性は否定できない.精神分裂病やうつ病などの内因性精神病の診断に関して,必ずしも有効ではない.患者の自覚症状によるテストなので,病識のない患者には注意を要する.

SDS3)

 SDS(Self-rating Depression Scale)は,アメリカDuke大学のZung WK(1965)によって作成された抑うつ性を評価する自己評定尺度である.20項目の質問 を4段階に自己評価するもので,第1,第3項目は感情について,第2,第4〜10項目は生理面,第11〜20項目は心理面の症状についての質問である. に質問項目を示す.

 SDSは,全項目の半分の10項目を反転項目としており,患者にパターンがわかりにくいように工夫されている.採点は,各項目ごとに,ない,またはたまにある=1点,ときどき=2点,かなりの間=3点,ほとんどいつも=4点を与え,総点を出す.以下の総点の基準を参考に示す.

 ・SDS(三京房)判定基準
  40点未満=抑うつ性乏しい,
  40点台=軽度抑うつ性あり,
  50点以上=中等度抑うつあり.

 抑うつ性の強い患者の場合,記入が正確でないことがある.また,病識のない患者,記入の意欲のない患者には行えない.SDSは,高齢者で得点が高くなることが知られている.

おわりに
 ここに示した評価尺度は内科医が日常臨床で「精神的問題」の疑いをもったときに実施する第1段階のものであり,これらのテストで問題があることが判明したならば,さらに詳しい検査をする必要がある
4).たとえば,パニック障害であれば,Seehan不安尺度5)を,強迫性障害であればYボックス(The Yale-Brown Obssive Compulsive Scale)6)を,社会恐怖であればLiebowitzの不安尺度7)を,摂食障害であればEAT(Eating Attitude Test)8)やEDI(Eating Disorder Inventory)9)を使用するとよい.また,うつ病に関しては,Hamiltonうつ病尺度10)やBeckのうつ病評価表11)を用いるとよいであろう.



1)東京大学医学部心療内科編:"東大式エゴグラム/実施マニュアル"1999,金子書房.
2)金久卓也,深町建:"日本版コーネル・メディカル・インデックス(改訂版)その解説と資料"1983,三京房.
3)福田一彦,小林重雄:"SDS――自己評価式抑うつ性尺度(使用手引き)"1983,三京房.
4)上里一郎監:"心理アセスメントハンドブック"1996,西村書店.
5)Sheehan DV: Sheehan Patient Rated Anxiety Scale(SPRAS) (For Panic Disorder). J Clin Psychiatry Suppl 18: 63, 1999. 6)Goodman WK, Price LH, Rasmussen SA, et al: The Yale-Brown Obssive Compulsive Scale. T. Development, use and reliability. U. Validity. Arch Gen Psychiatry 46: 1006-1011, 1989a. 
7)Liebowitz MR: Modern Problems of Pharmacopsychiatry. "Social Phobia" ed by Ban TA. Pichot P. Poldinger W, 1987, p141-173, Kager, Basel, Switzerland. 
8)Garner DM, Garfinkel PE: The Eating Attitudes Test: an index of the symptoms of anorexia nervosa. Psychol Med 9: 273-279, 1979. 
9)Garner DM, Olmsted MP, Polivy J: Development and validation of a multidimensional eating disorder inventory for anorexia nervosa and bulimia. Intn J Eating Dis 2: 15-34, 1983. 
10)Hamilton M: A rating scale for depression. J Neurol Neurosurg Psychiatry 23: 56-62, 1960. 
11)Beck AT, Ward CH, Mendelson ML: An inventory for measuring depression. Arch Gen Psychiatry 4: 561-571. 1961.