
ストレスチェック制度(ケセラセラvol.94)
医療法人和楽会 横浜クリニック 院長 海老澤尚
平成 27 年 12 月 1 日からス トレスチェック制度が始 まりました。労働安全衛 生法に定められ、ストレス チェックを実施することが 事業者の義務になっていま す(労働者数 50 人未満の事 業場は当分の間努力義務)。
①労働者のメンタルヘルス 不調の未然防止
②労働者自身のストレスへ の気づきを促す
③ストレスの原因となる職 場環境改善につなげる
が目的です。ストレスチェッ クの結果、高いストレスを 受けていると判定された労 働者(高ストレス者)から申 出があった場合、医師によ る面接指導を実施すること が事業者の義務になってい ます(申出を理由として労 働者に不利益な扱いをする ことは禁止されています)。(中央労働災害防止協会のHP [https://www.jisha.or.jp/stresscheck/about.html]より)メンタルヘルス不調につ ながる職場のストレスに早 く気づいて対応しましょう という制度です。
私たちも、高ストレス者に面接指導を行う医師としての立場でこの制度に関わることがあります。理念は良いのですが、時々限界も感じます。
今までも「長時間労働者に対する面接指導」というのはありました。この場合、ストレスの原因が長時間労働に限られるので、面接指導の後は疲労の蓄積などに的を絞り、労働時間の短縮や業務量の軽減などの措置を取ります。でも、「高ストレス者に対する面接指 導」では、長時間残業、上司・同僚との関係、業務内容、通勤時間が長すぎて十分な睡眠が取れない、など職場によって、労働者によって、ストレスの原因はまちまちです。残業時間や通勤時間は客観的に把握しやすいで すが、人間関係などについては相手もあることですし、できれば職場環境について、上司や同僚の方々のご意見も伺えればなあと思うことがあります。しかしほとんどの場合、面接指導で来院されるのはご本人のみなので、ご本人が強いストレスを感じておられることは判りますが、どのような改善策が可能か絞り込めないことがしばしばです。
また、職場のストレスのみでなく、家族の介護、病気、子供の受験や学校生活のトラブルなど個人的なストレスが重なってより強い ストレスを感じている方もおられます。その場合は職場のストレスと個人的なストレス双方を取り上げ、バランスを取りながら対策を練るのが望ましいです。しかし、ストレスチェック制度は職場のストレスに焦点を当てる仕組みになっています。また、通常面接に来られる方々は個人的ストレスを職場に伝えてほしくないと希望されるので、事業者に提出する面接結果の報告書・意見書に個人的なス トレス因を書くこともできません。
このように、ストレスチェック制度、およびその面接指導には制度上の限界があります。ただし、多くの人に職場のストレスへの関心を持ってもらえたこと、ストレスを抱える労働者を早く見つけられる可能性があることと、職場のストレスに第三者である医療者が介入できることなど、メリットも少なくありません。
職場でのストレス対策がしばしば企業の評判に大きく影響する現在、この制度をうまく活用していただければと、一医療者として思います。