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病(やまい)と 詩(うた)【58】②—「 事実」と「情報」—(ケセラセラvol.104)

東京大学名誉教授 大井玄

~①のつづき~

2020年11月の大統領選挙で、民主党候補ジョー・バイデン氏の勝利が宣言されたのちにも、トランプ大統領は、繰り返し「私が選挙に勝った!!」とツイートしている。
ニューヨーク・タイムズ紙(2020年11月23日社説)によれば、今回の選挙では、1932年の大統領選挙でフランクリン・D・ルーズベルトが勝利したとき以来の大差でバイデンが勝利した。彼は「選挙人」306人(必要数272人)を獲得し、総投票数でも700万もの差がある大勝利だった。

しかし嘘というものは、それを信じたい人にとっては、消しがたいものである。しかもその嘘は、歴史を振り返るとヒトラーなどが示したように、大きければ大きいほど信じやすい。トランプの嘘つまり「誤報作戦」は、バイデン政権の民主主義的正当性に長く影を落とすだろう。ロイター通信などが行った調査によると、共和党支持者の約半数はトランプが選挙に正当に勝利したと信じていた。また他の調査によれば、トランプ支持者の77パーセントは、バイデン氏は不正な方法で勝利したと信じている。

トランプ氏は、この誤報作戦を、選挙投票日よりはるか前から始めていた。新型コロナウイルスのパンデミックのため、郵便投票や不在投票が活用されたが、昨年春から夏を通じてトランプ氏は、証拠を示すことなく、郵便投票には大量の不正投票が含まれていると主張し続けた。

米国は訴訟の国である。トランプ支持派は、バイデン氏が不正に多数票を得たとして50件ほどの訴訟を行ったが、信頼できる証拠を一例として示すことができず、ことごとく却下された。

州レベルでも、激戦州の選挙管理の責任者は、たとえ共和党の知事であっても、ことごとく、選挙が公正かつ適切に行われたと証言している。

ニューヨーク・タイムズ紙(2021年1月25日)によれば、トランプ氏は、ジェフリー・ローゼン司法長官代理に、ジョージア州の選挙で用いられたドミニオン投票機械がトランプ票をバイデン票に組織的に変更している疑いがある、としてその機械を調査する特別の顧問たちを任命するよう命じたが拒否された。
トランプ氏がローゼン氏を解雇する可能性があるとして司法省の高官たちが一堂に会し、もしその事態が生ずるなら、全員が辞職すると決議したという。この情報は、同紙がトランプ前政権の4人の官僚から、匿名を条件として、得たものだった。
 
2020年の大統領選挙をめぐるおどろおどろしい話はどこまで信用できるのか。
ある事実は他の事実とどのくらい整合しているときに、事実であると評価できるのか。医学を含む自然科学においては、「生物進化」の例を見るまでもなく、事実を事実として認めるには、多くの証拠が必要になる。しかし人間社会の情報は、自分の志向に合う場合にはただちに「事実」化されるように見える。以下は年賀状として筆者がもらったものである。

賀正 米国大統領選挙で私は明白な「不正」の数々を知った。何十万票が一夜にしてトランプからバイデンにすり替えられてしまう投票マシーンの存在。民主党の予備選でそれがサンダース追い落としにも使われていたこと。今後上院の決選投票でこの期に及んでなお使おうとしていること。そのサーバーの奪い合いで銃撃戦が起こり、六人の犠牲者が出ていること。ジョージア州の開票所で職員を帰したのちの深夜居残りの四人が机の下に隠していた大量の投票用紙をバイデン有利にスキャンしたこと。これが監視カメラに全部映っていて公開されたこと。居住人口より多い投票数、何千人という死者の投票、投票日すぎてから有効となった郵便投票。それでいてCIAもFBIも動
かない。州知事や司法長官が言を左右にする。米国は今や法治国家ではない。買収や脅迫が横行するベネズエラ並みの選挙風景である。大手メディアは一切報道しない。権力構造の全体に異変が生じたのだ。ビル・ゲイツやジョージ・ソロスの名がその一角にあり、他方、社会全体の左傾化は著しく、やがて「人民党」が台頭し、二大政党制度はなくなるに違いない。
(十二月十一日記)令和三年 元旦 西尾幹二

註:
以上の不正「事実」は、上述したように、多数の裁判において、ことごとく、証拠がないとして却下された「情報」である。
西尾幹二氏は保守系評論家。

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