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病(やまい)と 詩(うた)【 59 】—コロナと三人の指導者—(ケセラセラvol.105 大井玄)

東京大学名誉教授 大井玄

東京では三度目の緊急事態宣言が発せられている。コロナパンデミックが明確に収束する予測が立たなければ、オリンピック開催中止をも考慮しなければならないだろう。

さて公衆衛生の立場から見ると、パンデミックを起こすようなウイルス感染症については、①病原体、②ホスト(宿主)、③環境条件の三つの側面に注意する必要あることはすでに述べた。
病原体であるウイルスはどんどん変異体を造る。ヒトは三十年ぐらいで次の世代をつくるが、細菌は条件が良ければ二十分に一回ぐらい分裂する。ウイルスの「進化」はさらに速く、ヒトの五十~百万倍の速さという。新型コロナ・ウイルスでもすでにイギリス、南アフリカ、インド型などすでにいくつも変異体が現れている。感染性が高まっているものも現れている。
ホストでは、高年者やほかの基礎疾患がある人の致死率が高いのは、当然のことだろう。
環境条件では、交通手段の発達によるヒトの交流速度のすさまじさに驚かされる。「疫病」というと十四世紀ごろのペストを思い出す人が多いだろうが、その時のペストは中央アジアから騎馬や船によって運ばれている。現在のように航空便で世界中にあっという間に広がるものではなかった。

しかし今回の新型コロナウイルスのパンデミックでは、環境条件の顕著な違いとして、国の最高指導者の姿が浮かび上がってくる。

ドナルド・トランプ〜科学を理解しない常習的嘘つき
トランプ前大統領のような科学的事実に無知でしかも科学者を信用しない態度は、世界政治においても珍しいものだった。昨年秋、六百万票の大差で大統領選に敗れた後も、自分が勝ったとツイッターで主張し続け、フェイスブックによってその利用を禁止されたのも記憶に生々しい。今年一月六日、議事堂に暴徒が乱入し、数人の死者が出た際、彼は議事堂襲撃を扇動し、アメリカ民主主義の根幹を揺るがした。
彼が無知であるのは「ウイルスは消毒薬に弱いからそれを注射するのが良い」と述べたことからも窺がわれる。薬の製造元は、即、「とんでもない」と否定の広告を出した。

さらに二〇二〇年五月、トランプ大統領は、マイク・ペンス副大統領が率いるコロナウイルス対策委員会を「パンデミックの制御に大成功を収めた」として解散した。当時、米国の感染者数は一六〇万人を超え、死者は一〇万人に迫っていた。世界人口の四%の国が感染者・死者のそれぞれ二〇%以上を出しており、その数字は最近まで増える一方であった。
第二次大戦の記憶もかすかに残る老耄の筆者は、第二次大戦後期、「ニューギニアより所期の目的を達成したので兵を撤収する」との大本営の発表を思い出さざるを得なかった。密林に覆われた日本の二倍もの広さのこの島に投入された日本兵は十四万人余り。そして死者は十二万七千六百人。そのうち、戦闘と関わりなく十一万四千八百四十人が疲労と飢えと感染症で死んだ。
トランプに勝利したジョー・バイデン大統領のコロナ・パンデミック対策は成功しつつあるように見える。新規感染者数は今年一月八日の一日約三十万人から五月二日の約三万人へと十分の一に急減した。彼はさらにワクチン接種のスピードを加速させ、七月四日の独立記念日までに、国民の七割に接種するという壮大な目標を掲げている。

ブラジル~何百万人の飢えた人々
リオデジャネイロの交差点で、がりがりに痩せた十代の子どもたちが「飢えています」と大書したプラカードをもって立っている、とニューヨーク・タイムズ紙が、今年四月末に報じた(1)。
彼らの多くはこの一年、学校には行っておらず、スーパーマーケットやレストランの外に立ち、食べ物を乞うている。一家は道路際の掘立小屋に住み、乳幼児用ミルク、クラッカーなど食べられるものは何でもありがたい。コロナ・パンデミックが始まって一年、何百万ものブラジル国民が飢えている。
新型コロナ感染症を「ちょっとした風邪だ」と切り捨て、ドナルド・トランプ氏と意気投合したハイール・ボルソナロブラジル大統領は、同国の経済を守ると称して、感染予防を目的とする公衆衛生的措置を実施しなかった。それは完全な失敗だった。
彼は、国民の健康を守るために行うロックダウン、移動の制限、営業禁止などは、二〇一四年以来不況にあるブラジルの経済をさらに悪化させるものであると主張した。もとより生活するためには働かなければならない。しかし過去一年間に、パンデミックの起こる前の時期に比べ、ほとんど倍に当たる一九〇〇万人が飢えているのである。また全人口の五十五%に当たる一億一七〇〇万人が空腹を抱えている。
この三月には一五〇〇人以上の経済学者、経営者が彼に公開書簡を送り、政府はロックダウンを含む厳しい公衆衛生的措置を講ずるよう要請した。「流行を制御しないまま経済的再生が起こると期待するのは非合理的である」と彼らは指摘した。
サンパウロ大学教授の経済学者ローラ・カルヴァロは、公衆衛生的行動制限は短期の経済的マイナスをもたらすが、長期的には良い戦略だという論文を発表した。
同国における二〇二一年五月初めの新型コロナ感染者数は、一五〇〇万人余りで世界第三位だが、死者が多く、ほとんど四二万人に達する。これは人口百万人当たりにすると、一九〇〇人で、最大の感染国アメリカの一七〇〇人を凌いでいる。医療体制はすでに崩壊している。

インド~呆然とするような楽観
「インドはコロナ流行を効果的に制御して、その大災害から人類を救った」、二〇二一年一月末、世界経済フォーラムでモディ首相は豪語した(2)。
コロナ流行について彼の楽観は、必ずしも根拠のないものではない。人口一四億人のこの国でパンデミックが始まると、二〇二〇年三月に外出禁止令がだされた。
コロナの新感染者数は同年九月をピークに下り始め、二〇二一年二月には一日一万人以下に落ち込んだ。「インドは新型コロナに勝った」という楽観的雰囲気が濃くなり、三月、四月にかけてヒンズー教の祭りや行事が開かれたがマスクをしている人は多くなかった。
また同じ時期に、マスクをつけないモディ氏の選挙集会がもたれ、多くのマスクをつけない彼の支持者が参加した。
当然予期されるように新規感染者数はみるみる増え、五月に入って三日間連続して一日四〇万人に達する新規感染者が生じ、医療機関の崩壊、さらに火葬場の処理能力をはるかに超える事態が生じている。
インドはワクチンの生産国だが、自国でのワクチン接種率は低いまま、注射にして六〇〇〇万単位以上のワクチンが世界に輸出されてきた。国威を挙げるのが主要目的である。
モディ氏は自分の周囲に科学のエクスパートではなく自分の同調者を集める点で、トランプ氏と同様だといわれている。彼の取り巻きは、彼の失敗を指摘したり、その「パンデミックは終わったという」意見に疑問をはさんだりする度胸がないのだろう。
二〇二〇年九月から二〇二一年二月にかけての感染者数低下の際に、専門家による第二波到来の警告がなされていたにもかかわらず、インド政府はそれを無視した。一月の時点で新たな変異株が確認されていたが、それも無視された。
四月一五日以降、毎日二〇万人以上の新規感染者を記録するようになり様相は一変した。病院は今や酸素供給不足に陥っている。少なくとも二〇の病院で酸素がないため二〇〇人以上が死亡した。ワクチンが不足しているため、市民は予防接種会場から追い返されている。コロナによる死者は火葬場の焼却能力をはるかに超えてしまった。北インドのビハールのガンジス川のほとりにある村チョーサの住民は、岸辺に何十という死体が打ち上げられているのを見ている(3)。
感染者数は、五月八日、すでに二千百万人に達し、死者は二三万人を超えた。しかし死者はブラジルの約半数なのが救いであるのかもしれない。とはいえ、インドの感染者、死者の統計数字が実情よりも大幅に低く抑えられているというのが定評である。

文献
(1) The New York Times、 International Edition, April 24-25、2021
(2) Ibid May4, 2021
(3) Ibid May13, 2021

 

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