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お好み焼き・父の味(ケセラセラvol.78)

医療法人和楽会 なごやメンタルクリニック院長 原井 宏明

夏休みに焼くお好み焼き

 夏休みの間、名古屋に大学院生の息子と大学生の娘がやってきました。久し振りに親子団らんができます。夕食を何にしようか?と尋ねたら、「パパが作るお好み焼き」が返事でした。私にも異議はありません。早速、私は頭の中で冷蔵庫の中身をチェック。キャベツと削り節は買い置きがある。とろろ昆布は前回のときの残りが冷凍庫にある,小麦粉はあるけど、3人分には足りないな,ネギともやし、豚バラ、竹輪、焼きそば用の麺、スライスチーズは買わなくちゃ。お好み焼きソースを切らしているが、ウスターソースとケチャップで代用するかな~。朝、家を出るときに、ボールに入れた小麦粉を水に溶かします。箸で表面に円がギリギリ書けるぐらいまでに薄くして、出汁の素を入れて、冷蔵庫で保管します。

夕方、帰宅するとき、必要なものをスーパーで買いそろえます。家についてからホットプレートを出し、材料を切り、皿に盛り、食卓テーブルに並べて準備完了です。ソースについては子どもたちがオタフクソースを希望。古くなったウスターソースの使い道がなかなかみつかりません。

最初にホットプレートを温め,油を引き、溶かした小麦粉を落とし、お玉の底で丸く拡げてクレープのようにします。朝から小麦粉を寝かして置いたおかげで、伸びが良く、塊になったり、穴が開いたりせずに薄くすることができました。小麦粉の薄焼きができたら、その上に削り節を撒き、小口切りしたネギと輪切りの竹輪、粗いみじん切りにしたキャベツ、もやしを乗せます。ホットプレートの空いたところで焼きそばの麺を炒め、塩コショウをします。その間に、とろろ昆布とスライスチーズをキャベツの上に乗せ、炒め終わった焼きそばを乗せ、その上に豚バラの薄切りを乗せます。最後に加えるのは卵。ホットプレートの空いたところに卵を落とし、お玉で黄身を崩し、小麦粉と同じように丸く薄く拡げます。小麦粉の下にコテを入れてひっくり返して、まだ生焼けの卵焼きの上に載せます。小麦粉の上に載った野菜や肉を落とさないようにうまく卵の上に載せるのは熟練の技が必要。うまく行くと子どもたちが拍手してくれます。ホットプレートの外にまでぶちまけてしまったときは、父が一人で黙々と後片付け。

後は数分間、野菜や肉が焼けるのを待つばかり。コテで小麦粉の上を押さえてジュージュー言わせるのもありです。しみ出してきた汁が焼けるときの匂いの香ばしさ!これは子どもたちがやりたがります。キャベツが十分蒸し焼きできたら、もう一度ひっくり返して、卵の側を上にし、そこにソースを塗りつけて、あとは切って食べるばかり。十字に切るので4切れできます。息子が二切れ、娘が一切れ。私の分に一つは取り置きしようとしますが、食べる前に次のお好み焼きに取りかからなければなりません。お好み焼きの問題点は調理中に食欲をそそってしまうことです。目の前で繰り広げられる調理のプロセス、ひっくりかえしてからの数分間に香り立つ肉や野菜が焼ける匂い、最後にソースが焦げる匂い。焼く側にとっては自分の分を食べられる暇はひっくり返してからの数分間だけです。焼きそばを焼いている間に、残っていた一切れは息子と娘に奪われてしまいました。私は“お預け”です。空腹のままでいることは不満なのですが、子どもたちが自分の作ったものを喜んで食べてくれる父親としての喜びの方が不満に優ります。お好み焼きの材料はまだまだあります。結局、この日は6枚、焼いたのでした。1枚10分はかかりますから、私は1時間、立ちっぱなし。

お好み焼き:息子の思い出

お好み焼きを食べながら、息子に私のお好み焼きをどう思うか、尋ねてみました。「お好み焼きは家族統合の象徴だね。」どういう意味か尋ねると、「オヤジが肥前療養所で働いていたときでも、学会や研修会なんかでよく出張があった。オヤジが帰ってくると、その日はお好み焼きだった。『パパが帰ってきた』という気持ちと結びついているね。」

淋しい思いをさせていたのかなと思いつつ、お好み焼きは私が一人のとき、自分だけのために作ることはない、家族が揃ったときにしか作らない、息子の言うとおりだ、と考えていました。

私の思い出

ここで書いたお好み焼きは広島風です。私のお好み焼きは亡くなった父が焼いていたのを真似たものです。食卓について私の一番古い思い出は、5、6歳のころから台所にあった1m四方ぐらいの大きさのお好み焼き用ガステーブルです。正方形の厚い鉄板が真ん中にあり、それを15㎝ぐらいの幅の木製のテーブルが囲んでいました。これを使って父がお好み焼きをつくっていました。ガスで火力が強く、ホットプレートよりも早くお好み焼きができあがります。

父は広島出身です。「一銭洋食と言って、広島駅のまわりに屋台がたくさんあった。学生のころよく食べた」というのが父の口癖でした。私もお好み焼きと言えば、この焼き方が当たり前と思い込んでいました。中学になってから、友だちと外に食べに行ったとき、関西風のお好み焼きに遭遇したときには驚きました。店主が小麦粉、キャベツと分けて焼くのを面倒に思って手抜きをしたものを出したのか?と思ったほどです。(私が住んでいたのは京都ですから、お好み焼きは関西風がメジャーです。小麦粉やキャベツ、卵を全部混ぜ合わせてから、ふわっと焼き上げます。上からコテで押しつけるようなことはしません。名古屋も関西風が普通。)

結婚する時、大学病院でお世話になったオーベンの先生から、お祝いに何が良いか尋ねられました。迷わず「ホットプレート」と答えました。亡父のようにお好み焼きを家族のために焼くことが目的でした。

本当に広島風?

私がお好み焼きを焼くようになってから、気になったことがあります。家族は私の作るお好み焼きを広島風と信じています。お好み焼き屋は九州にもあります。そしてどこも全て関西風でした。広島風は私が作るものしかなかったわけです。私は不安になりました。「私の作る広島風は本当に広島風なのか?」。私は父が作った広島風以外の広島風を知らないわけです。

最初に紹介したのは、私が広島に行く機会があったとき、八丁堀にある屋台村での焼き方を真似たものです。父はもやしと焼きそば、チーズを入れませんでした。卵は肉の上に乗せ、その上から水溶き小麦粉をかけていました。父の広島風は一銭洋食時代のものなのかもしれません。私は私なりに進化させたことになるでしょう。

記憶の役割

記憶が私たちにとって果たしてくれる役割とは何でしょうか?日常生活を送る上で記憶が欠かせないのはもちろんです。冷蔵庫の中に何があるのかを思い出し、お好み焼きの材料として何を買い足さないといけないのかをリストできるのも記憶のおかげです。屋台村で見た広島風の焼き方を覚えて再現するのも同じです。

しかし、もっと重要な役割は、私たちがどんな人か? という概念を作ってくれることでしょう。「お好み焼き」の思い出は、私の父がどんな人であったのか、私はどんな人なのか、という概念を作ってくれています。私の子どもたちもお好み焼きから自分の父親のことを思い出してくれます。「自分は誰か?何者か?」自分のすること、なすことが残す記憶がこの答えを作っていると思うと,日々の暮らし方も違ってくるような気がします。

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