コーチングのすすめ −その2−

 
今回は、本の紹介をしたいと思います。

 以前、ケセラセラVOL.41、2005年 夏号に、「コーチングのすすめ 〜コミュニケーションの改善のために〜」
http://www.fuanclinic.com/dr_yo_h/dr_y_41.htm )ということで、一口コラムを書きました。相手を教え諭すティーチングに対して、相手の意欲や可能性を引き出していくのがコーチングで、近年、職場において部下の育成を主眼としたビジネス・コーチングというものが注目されており、これは、上司−部下関係に限らず、親子関係、夫婦関係、その他の人間関係全般にも、とても役に立つのではないかということで、記事に書きました。

 あれから大分たちますが、先日、本屋をぶらぶらしていましたら、「コーチングが人を活かす」(鈴木義幸著、ディスカヴァー社)という本が目に入り、手にとって中を見てみたところ、非常にわかりやすくまとまっていて、患者さんや、特にその御家族に、これはおすすめだと感じました。「パート1相手の中から答えを引き出す」「パート2安心感と自信を与える」「パート3未来への夢を抱かせる」「パート4新しい視点を与える」・・・など、カウンセリング的な視点にもあふれ、家族関係や人間関係に悩んでいる方々にきっと何か参考になるものがあると思い、今回のコーチングのすすめ、第二弾というわけです。

 なかなかいいなと思ったのは、巻末に「こんな場合はこのスキルが使える」という付録がついていて、「部下がスランプで落ち込んでいる」「部下があまり話してくれない」「部下とうまく接点を持つことができない」「部下がいつも不平や不満ばかりいってくる」「部下にいいたいことがあるがちょっといいにくい」「部下とのコミュニケーションがどうもしっくりいかない」など、それぞれのケースで、どこのページを参考にすればいいのかが、簡単にまとまっていることです。この「部下が・・」の部分は、「夫が・・」「妻が・・」「子どもが・・」「親が・・」「家族が・・」「恋人が・・」と読み替えることができます。

 内容について、いくつか、かいつまんで御紹介しましょう。何か問題が生じた時に「なぜ」と尋ねると、尋ねられたほうは責められることを想定して防衛態勢に入ってしまうから、「なにがいけなかったのか?」と「なに」を使うようにする。質問を投げかけたあとは「ゆっくり考えていいよ」と沈黙の時間を大事にし、答えは必ず相手の中にあるという信頼を持って待つ。相手の言葉をきいて感じたことを相手に伝えてみる、そして不安を感じたら、その気持ちを正直に伝える。自分のやり方を相手に強要せず、相手の強み、いいところを見つける。どうしたらいいかわからないときは、相手が何を欲しているかをきいてみる。コミュニケーションがうまくいっていないときは、ちょっと心の目を空中に浮遊させて、上から距離をおいて観察してみて、感じたことを相手に伝えてみる。相手の立場に立って考えるには、相手に関する質問をひたすら自分自身に問いかけてみる、たとえば「彼/彼女はそのことについてどう思っているだろうか?」「彼/彼女は毎日どんなことを考えながら仕事をしているのだろうか?」「彼/彼女が子どものころの夢ってなにだったのだろうか?」「怒鳴られたあと彼/彼女はどんなことを思うのだろうか」という具合に。

 この本に書かれていることは、私が日々の診療において心掛けていることと重なるところも多々あり、患者さん方から、なにやら自分の担当医は、ここに書かれていることをそのままやっているなとか、あるいは逆にちゃんとやっていないぞとか思われると、ちょっと困る気もしましたが、大切な人との人間関係がこじれてしまっている場合など、きっと皆さんの参考になるところがあるのではないかと思い、御紹介いたしました。なかなか簡単には、いかないかもしれませんが、ちょっとやってみようかなということがありましたら、是非、実践してみてください。

医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック院長

吉田 栄治

ケ セラ セラ<こころの季刊誌>
VOL.53 2008 SUMMER