フクロウblog | 貝谷 久宣医師の不安のない生活

医療法人和楽会の「フクロウblog」です。治療や講演会などの様々な情報をお届けします。

マインドフルネスの臨床効果と脳科学 ①腹が立たなくなりました(ケセラセラvol.92 春)

医療法人和楽会 理事長 貝谷 久宣

 

今回から新しい連載をはじめました。1年か2年は連載できると思います。マインドフルネスのショートケアセンターに通所し始めた患者さんがまず初めに気づくことは、立腹しないか、腹が立っても程度が軽く顔に出なくなるということのようです。それは、マインドフルネスの基本態勢である、今のこの瞬間を判断せず優しい気持ちで好奇心を持って受け入れる、ということが現実生活の中にも無意識のうちに少しずつ浸透するからだと思います。この効果は社会的動物である人間にとっては非常に好ましいことです。腹を立てるということは良好な人間関係を損ずる危険性が大変大きいことを意味しています。人間というものは不思議なもので心の状態がすぐ顔に現れます。腹が立たなくなった方はある日ふっと穏やかな表情が見られるようになります。一緒に瞑想をした後のシェアリングでこのような人を見ると私は本当にうれしくなります。

私は、そのうれしさをすぐ本人に伝えたくなってしまいます。”あっ!顔が変わったね。良くなってきたよ!”と声をかけます。すると患者さんはますます明るい輝いた顔になります。この瞬間にマインドフルネスをはじめて本当によかったと感じます。

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上杉謙信の寺 (ケセラセラ vol.91 冬)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

 

先日、NHK BSプレミアム番組「偉人たちの健康診断」の制作プロデューサーから上杉謙信を取り上げるのでマインドフルネスの解説をして欲しいという連絡があった。制作担当者は、戦国武将最強と言われた上杉謙信の強さの秘密は瞑想にあると推測したからである。
謙信は1530年に越後の守護代・長尾為景の末子として春日山城で誕生した。幼名虎千代は6歳に城下の林泉寺・天室光育和尚に預けられ、教育を受けた。13歳で元服し景虎となり、越後の国栃尾城の主となった。その翌年には初陣を勝利で飾り、以後、合戦には常勝で、21歳の時越後の国を統一した。26歳の時、一族の反乱にあい、自己嫌悪に陥り、仏門に入るため高野山に向け出奔してしまった。その理由は、常に、正論を主張する謙信は戦国の世知辛い家来たちをまとめるだけの世間常識に疎かった為だったのだろう。また、上杉謙信はひらめきタイプの人間で、理詰めで家臣を説得するのが苦手であったのではないかと思われる。6歳から7年間の禅寺での修行が謙信を直截的で清廉潔白な人間としたのであろう。
しかし、結局、謙信は家臣に連れ戻され元のさやに納まった。それから、川中島の戦いは合計5度におよび、戦国武将として死ぬまで大活躍をした。

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不安のない生活(34) 呼吸について(7) (ケセラセラ vol.90 秋)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

呼吸の仕組みについては今までいろいろ述べてきましたが、ここで呼吸の3つの脳内のセンターについてもう一度おさらいをしておきましょう。

代謝性呼吸は無意識に行っている呼吸をつかさどっています。延髄にある化学受容器が血中の炭酸ガス分圧を感知して呼吸をコントロールします。脳幹部に中枢があります。わたくしたちは意識的に呼吸をゆっくりしたり、息をためることが出来ます。呼吸を自分の意志により左右できるこの呼吸を随意性呼吸と呼んでいます。手や足を意識的に動かすときに指令を出すのと同じ大脳皮質運動野に中枢があります。

最近分かってきたのは、情動性呼吸という呼吸です。不安になったり、興奮すると呼吸が早くなります。このような陰性感情は扁桃体の活動で引き起こされ、その刺激が呼吸にも及ぶことが分かってきました。静かな深い呼吸は扁桃体の活動性を静めることも最近の研究で分かってきました。歌うとき、会話をするときも呼吸は変化します。この時は呼吸を意識する場合もしない場合もありますので、随意呼吸だけでなく自動性の呼吸が行われます。このような呼吸は、代謝性呼吸とは区別して行動性呼吸といわれています。行動性呼吸では3つの呼吸中枢が相互的に働いていると考えることができます。(図1 3つの呼吸中枢)

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不安のない生活(33) 呼吸について(6) (ケセラセラ vol.89 夏)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

 

前回、坐禅では調身・調息・調心が大切であることを述べました。これは、沈静な心には、呼吸が整わなくてはならない、呼吸を整えるには姿勢を正しくしなければならないということです。坐禅の姿勢として、坐蒲に座った時に坐骨が垂直で、骨盤が水平となり(図1)、その上に背骨が真っ直ぐに列なり、頭頂部で天井を突き上げるが如く気持ちで坐るのが良いとされています(図2)。ところが、尺八奏者中村明一氏の「密息」では、骨盤を後ろに倒すのが良いとしています。坐禅の呼吸と尺八を吹く息使いとは別物であると思われるかもしれませんが、実はどうも深い関係がありそうなのです。

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不安のない生活(32) 呼吸について(5) (ケセラセラ vol.88 春)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

 

究極の不安の病パニック症の主な症状の一つとして息切れと窒息感がある。呼吸と不安は密接な関係である。この両者の関係について興味深い実験がなされている。指先に電気ショック用の電極が取り付けられ、今から数分以内に電気ショックが来ますと被験者に伝えられる。この人はいつ電気ショックが来るか今か今かと不安でいっぱいになる。このような不安を予期不安と呼んでいる。予期不安が高まった時呼吸数がどのように変化するかを調べながら脳波がとられた。この実験の前に不安体質についての心理検査がなされており、不安体質の程度が強い人ほど呼吸数の変化が著明であったことが分かった。また、脳波から脳内の電源を推定すると、扁桃体部と推定される脳部位の活動が呼吸リズムと同期していた。脳外科手術の時に扁桃体を微弱な電流により刺激すると呼吸数が増大することが観察されている。これは扁桃体が刺激されると脊髄にその信号が伝わり横隔膜を収縮させ吸気活動が生じるからである。この扁桃体は不安・恐怖や怒りの中枢となる脳部位である。

扁桃体で生じる情動は呼吸とお互いに影響しあっている。呼吸がゆっくりとなれば、いやな感情も薄れていく。気分が落ち着かない時やイライラしている時自然に深呼吸をすることがある。これは理にかなったことである。また、ストレスが高まり困ってしまった状態では無意識のうちにため息が出る。これも、生体の自然な反応である。

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