フクロウblog | 貝谷 久宣医師の不安のない生活

医療法人和楽会の「フクロウblog」です。治療や講演会などの様々な情報をお届けします。

マインドフルネスの臨床効果と脳科学 ③ マインドフルネスを続けると長生きしますか – その1(ケセラセラvol.94 秋)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

 

まず、話の順序として長生き遺伝子といわれているテロメアについて簡単に説明しましょう。人間のDNAの末端にはテロメアと呼ばれる特定の塩基の繰り返し配列があります(図1)。このテロメアは細胞分裂をするたびに短くなっていきます。テロメアには遺伝情報は含まれていませんが、テロメアがあることにより意味のある遺伝子配列が失われないようになっています。細胞分裂を繰り返しテロメアが短くなりすぎるとそれ以上細胞分裂ができなくなってしまいます。それが老化です。

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マインドフルネスの臨床効果と脳科学 ②すこし思いやりの気持ちが持てるようになりました(ケセラセラvol.93 夏)

医療法人和楽会 理事長 貝谷 久宣

 

東京マインドフルネスセンターではヨーガの後に瞑想を25分しています。最後の5分は慈愛の瞑想(Loving-Kindness Meditation)です。慈愛と慈悲(Compassion)は少し意味が異なります。慈愛は、自分や他人が幸せになることを望む祈りです。慈愛はパーリ語でMettaと表現され、「無条件の親しみ」や「博愛」と訳されることもあります。自分や他人に対する善意を培う際に、私たちはいつでも慈愛を体験することが出来ます。一方、慈悲とは自分や他人が苦しみから解放されることを望むことです。苦しみに気が付いた時、それを願望や行動として和らげたいと思う時に、慈悲の心が生じます。実際には、慈悲の瞑想は慈愛の瞑想の一部であると考えている人もいます。

では、慈愛の瞑想はどのようにするのでしょうか。瞑想中に次のように心の中でつぶやきます:私が幸せでありますように! 私の悩み苦しみがなくなりますように! 自分に対する慈愛の瞑想が終わったら次には、自分に最も身近な人、親しい人、または好きな人に対して、その次には好きでも嫌いでもないその時にふっと顔が浮かんだ人に、その次に嫌いな人に、その次には生きとし生けるものに、最後にもう一度自分に対して行います。この時、嫌いな人を思い出すだけで心が乱れそうならパスします。

慈愛の瞑想中に参加者の様子を眺めていますと、皆さんの真剣な様子が伝わってきます。中には顔をしかめたり、涙を流す人もいます。慈愛の瞑想を真剣にすると瞑想がより深まります。

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マインドフルネスの臨床効果と脳科学 ①腹が立たなくなりました(ケセラセラvol.92 春)

医療法人和楽会 理事長 貝谷 久宣

 

今回から新しい連載をはじめました。1年か2年は連載できると思います。マインドフルネスのショートケアセンターに通所し始めた患者さんがまず初めに気づくことは、立腹しないか、腹が立っても程度が軽く顔に出なくなるということのようです。それは、マインドフルネスの基本態勢である、今のこの瞬間を判断せず優しい気持ちで好奇心を持って受け入れる、ということが現実生活の中にも無意識のうちに少しずつ浸透するからだと思います。この効果は社会的動物である人間にとっては非常に好ましいことです。腹を立てるということは良好な人間関係を損ずる危険性が大変大きいことを意味しています。人間というものは不思議なもので心の状態がすぐ顔に現れます。腹が立たなくなった方はある日ふっと穏やかな表情が見られるようになります。一緒に瞑想をした後のシェアリングでこのような人を見ると私は本当にうれしくなります。

私は、そのうれしさをすぐ本人に伝えたくなってしまいます。”あっ!顔が変わったね。良くなってきたよ!”と声をかけます。すると患者さんはますます明るい輝いた顔になります。この瞬間にマインドフルネスをはじめて本当によかったと感じます。

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上杉謙信の寺 (ケセラセラ vol.91 冬)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

 

先日、NHK BSプレミアム番組「偉人たちの健康診断」の制作プロデューサーから上杉謙信を取り上げるのでマインドフルネスの解説をして欲しいという連絡があった。制作担当者は、戦国武将最強と言われた上杉謙信の強さの秘密は瞑想にあると推測したからである。
謙信は1530年に越後の守護代・長尾為景の末子として春日山城で誕生した。幼名虎千代は6歳に城下の林泉寺・天室光育和尚に預けられ、教育を受けた。13歳で元服し景虎となり、越後の国栃尾城の主となった。その翌年には初陣を勝利で飾り、以後、合戦には常勝で、21歳の時越後の国を統一した。26歳の時、一族の反乱にあい、自己嫌悪に陥り、仏門に入るため高野山に向け出奔してしまった。その理由は、常に、正論を主張する謙信は戦国の世知辛い家来たちをまとめるだけの世間常識に疎かった為だったのだろう。また、上杉謙信はひらめきタイプの人間で、理詰めで家臣を説得するのが苦手であったのではないかと思われる。6歳から7年間の禅寺での修行が謙信を直截的で清廉潔白な人間としたのであろう。
しかし、結局、謙信は家臣に連れ戻され元のさやに納まった。それから、川中島の戦いは合計5度におよび、戦国武将として死ぬまで大活躍をした。

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不安のない生活(34) 呼吸について(7) (ケセラセラ vol.90 秋)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

呼吸の仕組みについては今までいろいろ述べてきましたが、ここで呼吸の3つの脳内のセンターについてもう一度おさらいをしておきましょう。

代謝性呼吸は無意識に行っている呼吸をつかさどっています。延髄にある化学受容器が血中の炭酸ガス分圧を感知して呼吸をコントロールします。脳幹部に中枢があります。わたくしたちは意識的に呼吸をゆっくりしたり、息をためることが出来ます。呼吸を自分の意志により左右できるこの呼吸を随意性呼吸と呼んでいます。手や足を意識的に動かすときに指令を出すのと同じ大脳皮質運動野に中枢があります。

最近分かってきたのは、情動性呼吸という呼吸です。不安になったり、興奮すると呼吸が早くなります。このような陰性感情は扁桃体の活動で引き起こされ、その刺激が呼吸にも及ぶことが分かってきました。静かな深い呼吸は扁桃体の活動性を静めることも最近の研究で分かってきました。歌うとき、会話をするときも呼吸は変化します。この時は呼吸を意識する場合もしない場合もありますので、随意呼吸だけでなく自動性の呼吸が行われます。このような呼吸は、代謝性呼吸とは区別して行動性呼吸といわれています。行動性呼吸では3つの呼吸中枢が相互的に働いていると考えることができます。(図1 3つの呼吸中枢)

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