フクロウblog | 2014 | 6月

医療法人和楽会の「フクロウblog」です。治療や講演会などの様々な情報をお届けします。

甲状腺の話(ケセラセラvol.75)

医療法人和楽会 横浜クリニック院長 工藤 耕太郎

甲状腺という臓器の名前を聞いたことのない人も多いと思います。甲状腺はのどぼとけの少し下にある臓器で甲状腺ホルモンというホルモンを分泌しています。

甲状腺ホルモンの役割は、熱を上げる、食欲を後進させる、心拍数を上げる、代謝を亢進させるといったところが代表的なものですが、精神症状にも影響を与えることが知られています。甲状腺ホルモンにより、精神的に活発な活動が可能になります。

さて、甲状腺機能低下症という病気があります。なんらかの原因により甲状腺の機能が下がり、甲状腺ホルモンの血中濃度が低下してしまいます。この病気も精神科の臨床に大きな影響を与えます。なぜならば、甲状腺の機能が低下した場合、食欲不振、低活動、過眠、低体温、心拍数の低下、血圧の低下といった症状が出現するからです。甲状腺機能低下の症状はうつ病と一致するものがあるのです。問診だけではうつ病と区別がつかないこともしばしばあります。

それでは、甲状腺機能低下症はどのような検査をすればよいのでしょうか? 続きを読む


病(やまい)と 詩(うた)【 29 】―「見果てぬ夢」を診る―(ケセラセラvol.75)

東京大学名誉教授 大井 玄

臨床医はだれでも不思議なことのひとつやふたつを体験しているものである。地方に講演に行く楽しみのひとつは、そんな話を伺えることにある。以下は奈良県で開業しておられる脳外科精神科中島孝之先生の話そのままを書き写したと言ってよい。

ある時彼は一軒の定期往診を頼まれた。患者さんは七十五歳の男性で、半年ほど前に岡山県で作業中急に左半身が動かなくなり、救急で病院に搬送された。これは右脳の梗塞のためで、言語中枢は左脳にあるため会話の能力は損なわれなかった。入院一ヶ月、リハビリ二ヶ月ののち、娘の嫁ぎ先の奈良県に転居した。

ここでもリハビリ通院を勧められたが積極性に乏しく、初めは週二回の予定だったのに回数が減り、週一回、さらに二週に一回になり、ついには自宅でほぼ一日中寝たきりで過ごすようになった。会話もほとんどしなくなった。このような状態で在宅医療、できればリハビリを始めてもらいたいというのが、家族の希望であった。

訪問・初診当日、中島先生は往診目的と脳外科の医師である旨を彼に告げたが、「あぁ」と言っただけで患者は視線をこちらに向けようともしない。型どおりの診察だけで早々に切り上げた。 続きを読む