フクロウblog | 血管迷走神経反射について(ケセラセラVol.76)

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血管迷走神経反射について(ケセラセラVol.76)

医療法人和楽会 横浜クリニック院長 工藤 耕太郎

今回は血管迷走神経反射について簡単に説明します。

血管迷走神経反射性失神は、神経調節性失神の中でもっとも頻度の多い病気です。神経調節性失神とは立位などで血液が下半身に下がってしまうことにより、脳への血流が不足し意識を失うものです。神経調節性失神の中でもっとも頻度は多く、若年者でも0.5%以上の人が罹患していると言われています。また失神全体の中で20%を占めるとも言われており、非常に多いものです。

しかし、一般的にはこの病気は知られていないようです。失神後ということで救急外来などを受診したあと、「精神的なものでしょう」ということで精神科に紹介されてくることがとても多いと感じています。

それでは、迷走神経というものがどういうものかをご説明します。迷走神経というのは自律神経の一つの副交感神経に含まれるものです。自律神経には交感神経と副交感神経があります。交感神経は血圧をあげたり、心拍数を上げたりする働きがあります。副交感神経は逆に血圧を下げたり、心拍数を下げたり、消化管の働きを活発にする働きがあります。ごく簡単に説明すると、活動する時に交感神経の働きが必要になり、休息をとるときに副交感神経の働きが必要になります。

血管迷走神経反射とはこの副交感神経の働きが不適切な時に起きてしまうものです。通常、哺乳類はストレスがかかると交感神経の働きが活発化します。しかし、ストレス時に副交感神経の働きが活発になることがあり、これを血管迷走神経反射といいます。軽症レベルから重症レベルがあり、重症レベルの場合は失神してしまいます。

さて、なぜ精神科の診療でこの病気が大事なのでしょうか?それはしばしば精神科を受診するように救急外来の医師や内科医に指示される患者さんがいらっしゃるのです。したがって救急外来などに勤務する医師がこの病気に対する知識を持つことも大事ですが、我々、精神科医が適切にこの病気の疑いを問診で見抜き適切な医療機関に紹介する必要があるのです。

さて、血管迷走神経反射の病態について簡単に説明してみます。発症する状況はストレス下が多いです。具体的には過労、脱水、長時間の立位、起立、空腹、痛み、採血、恐怖などがあげられます。特に、寝不足気味で長時間満員電車の中で立っているという患者さんが初診することが多いです。また腹痛でトイレでうなった後に発症する方も数多くいらっしゃいます。献血ルームなどでもよく起きるようですが、さすがに献血ルームの医療者はこの病気について詳しいことがおおく、献血ルーム経由の患者さんが私の外来にいらっしゃったことはありません。

次に症状を順を追って説明します。失神の前兆として最初に血の気が引くような感じがして、その後に顔面蒼白や発汗、吐き気、腹部不快感、強い不安などが起きます。失神にまで至らず前兆のみの場合も多いです。

さて失神に至った場合でも至らなかった場合でも大抵の場合患者さんは救急外来などを受診します。ここで気をつけなければならないことは、患者さんが横になってしばらくすると、すべての症状は軽快もしくは消失してしまいます。というのは神経調節性失神というのは下半身に血がたまることによっておきるわけですから、立位でなければ起きないのです。結果として、救急外来で「調べた限りでは何もないので精神的なものでしょう」という説明をされてしまうことにつながってしまうのです。

詳細な問診を行うことにより、概ね診断をつけることは可能になるのですが、診断を正確につけるにはHead up tilt testという検査が必要です。検査に必要な時間は40分ほどの場合が多いです。この検査は循環器内科で行うことが多いです。

多くの血管迷走神経反射の患者さんは精神疾患だと思い精神科や心療内科を受診しますが、適切な問診で正しい治療につながることを祈っております。