パニック障害とうつ病のcomorbidity
 米国の疫学調査では気分障害の生涯罹病率は19%であり、不安障害のそれは25%と、精神障害の中ではもっとも発症頻度の高い疾病群であると考えられている。個々の疾病についてみると、大うつ病の生涯罹病率は17.1%、パニック障害のそれは3.5%である1)。さらに、これら2つの状態は合併することが非常にしばしばみられ、パニック障害患者におけるうつ病の生涯有病率は55.6%と大変頻度が高いことが明らかにされている。このうち48%はうつ病がパニック障害に先行し、31%は同じ年に発症し、22%はパニック障害がうつ病に先行した2)。このように疫学的研究の結果とは別に、個々の臨床研究におけるパニック障害と大うつ病のcomorbidityの割合をみてみると表1のような結果になる。これらの多くは疫学調査のような生涯罹病率ではなく、横断面的な調査が多いのでその割合は疫学調査のものより低くなっている。逆に、うつ病を中心に考えると、大うつ病の1/3にパニック発作がみられると報告されている3)
パニック障害とうつ病の近似性

 パニック障害とうつ病の関係は以下の4つの点から密接に関係していると考えられる。まず、第1に、上述したように、パニック障害患者に抑うつ状態または大うつ病がしばしばみられることである。第2に、三環系抗うつ薬やモノアミン酸化酵素阻害薬はパニック障害に対してもうつ病においても効果のある共通した治療薬として使用される19)。また、近年本邦でも使用可能となったSSRI(フルボキサミン)もうつ病にもパニック障害にも効果を有する。第3に、クロニジンに対する成長ホルモン反応異常といったような共通した生物学的マーカーがあることである20)。 最後に、パニック障害の家系にうつ病がみられることがある21)
不安うつ病−パニック性不安うつ病
 Overallら22)は簡易精神症状評価表(BPRS)の16要素を因子分析し、うつ病を不安群、敵意群、退行性抑うつに群とに分類した。不安群で高かった要素は、抑うつ気分、不安、緊張、身体的愁訴の順であった。Pykel23)は多変量分析を使用し、うつ病患者を 精神病群、不安群、敵意群、および人格障害のある若年群の4群に分けた。不安群では抑うつ気分は中等度で、不安と疲労、強迫症状、離人症といった神経症的症状があり、神経質な病前性格が示された。以前は、このようなうつ病の中で不安症状が強い不安群を不安うつ病と呼称していた。ところが、近年は不安障害に伴ううつ病を不安うつ病と呼ぶようになった。DSM-IIIによる診断法では、第1軸診断を2つ以上つけることは許されなかったが、DSM-IIIR以後ではそれが許されるようになり、大うつ病と不安障害と2つに診断名が併記されるようになった。DSM-IVでは「不安うつ病」という診断カテゴリ−は存在しないが、不安障害に大うつ病または気分変調性障害を伴う場合、「不安うつ病」と呼んでいる24)。パニック障害に伴う大うつ病または抑うつ状態は多少なりとも特徴があるので、筆者らは、他の不安障害に伴う大うつ病と区別して「パニック性不安うつ病」と呼称している18)

パニック障害に合併する抑うつ状態の種々の病型
 Klein25)は、度重なるパニック発作や広場恐怖の苦痛に対しての心理的反応として生ずるうつ状態を demoralization depression(意気消沈うつ病)と呼んだ。これは、「自分は役立たずの弱虫だ」と自嘲し、気力が低下した状態である。これは成因的にsecondary depressionと呼ばれるうつ病である。このようなKleinの見解と相対して、Klerman26)はパニック障害におけるうつ病は心理的反応として捉えるべきでないうつ病が多く含まれていると述べている。 Breierら27)は、パニック障害に先立つまたはそれに引き続く大うつ病の85%は内因性の様相を呈すると報告している。広瀬28)は不安発作の後長い間欠期をおいて抑制主体のうつ病相が出現するタイプを指摘し、「不安発作・抑制型うつ病」と名付けている。メランコリー型うつ病と対極をなす非定型うつ病(DSM-IV)は、気分反応性、過眠、過食、鉛様麻痺、拒絶に対する過敏性を特徴とするが、その37%にパニック発作があったと報告されており29)、パニック障害に伴う抑うつ状態の中に非定型性うつ病はそれほど稀ではないと考えられる。実際、筆者らの調査によれば、パニック障害に伴う抑うつ状態の1/4は非定型うつ病の診断がなされうる18)。双極性障害とパニック障害の関係についても注意を払う必要がある。41名のパニック障害患者の88%に双極性障害がみられ、57名の双極性障害患者に10名のパニック障害が見つかった30)。また疫学調査でも、双極性障害におけるパニック障害の生涯発症率は20.8%で、単極性うつ病におけるパニック障害のそれは0.8%で有意に低かった31)。さらにまた、季節性感情障害とパニック障害のcomorbidityについても報告されている。Halle & Dilsaver32)は冬季うつ病の24%にパニック障害を認めた。以上述べてきたように、パニック障害にともなう抑うつ状態には種々な病像があり、パニック障害の病因を考える上にも大変意義深い。

パニック障害に合併する抑うつ状態の臨床症状の特徴
 Lesserら33)は、パニック障害を発症後うつ病を呈した435名の患者についてハミルトンうつ病評価尺度を用いて症状の分析を行った。焦燥/不安、睡眠障害、および身体化といった3つの項目が総得点の75%を占めた。そして内因性の要素、すなわち、体重減少、日内変動、および現実吟味(罪責感、病識、離人症、妄想)が少ないことを示した。また、Klerman26)は、パニック障害にみられるうつ病は悲観、落胆、希望のなさ、絶望感とともに身体的訴えが強いことを指摘している。Van Valkenburgら34)は不安うつ病についての臨床研究を報告している。それによると、パニック障害とそれに引き続くうつ病群はうつ病のみ群と比べると、精神運動退化が少なく、焦燥、心気症、離人症が多く、自殺念慮は少なかった。うつ病とそれに引き続くパニック障害群はうつ病のみ群と比べると、焦燥感が強く、心気症と離人症が多かった。筆者らの研究で得られたパニック性不安うつ病の特徴は、抑うつ気分が強く、仕事や活動面の障害度が高く、消化器系の身体症状が多く、ふがいなさ感と絶望感が強いという結果であった18)。筆者が実地臨床で得た経験からパニック性不安うつ病の特徴と考える全体像を表2に示した。
パニック障害の伴う抑うつ状態の治療反応と予後
 パニック発作に伴わないうつ病の3週間の抗うつ薬治療に対する治療反応は53%であったのに対して、入院中のパニック発作を伴ううつ病患者の抗うつ薬に対する反応は15%であり、前者のほうが抗うつ薬に対する治療反応は統計学的有意によかった35)。うつ病の既往はあるが治験時には抑うつ状態は認められないパニック障害と、うつ病の既往のないパニック障害のベンゾジアゼピン系抗不安薬に対する治療反応には有意差はなかった。ただし、再発性のうつ病のあるパニック障害の治療反応は不良であった36)。Kellerらは126名の軽度から中等度のうつ状態を合併するパニック障害患者をイミプラミン、アルプラゾラムまたはプラセボで16週間にわたり盲験テストを行った37)。治験薬はプラセボと比較して予期不安、恐怖症、うつ状態に対して有効であったが、パニック発作に対しては有意差がでなかった。彼らは強い抑うつ状態が治験薬のパニック障害に対する効果を弱めると考えた。フェニールピペラジン核を有するトラゾドンに類似した化学構造を持つネファゾドンはパニック障害とうつ病を合併する患者の抑うつにも不安症状に対してもイミプラミンより有効であった38)。薬物療法に反応不良であったパニック障害とうつ病を合併する8名の患者に電気けいれん療法が6〜12回施行された。うつ症状は著明に改善し、この治療の4回目以降にはどの患者もパニック発作を認めることはなかった39)
 Noyesらはパニック障害患者89名の3年後の追跡研究をした。それによると、うつ病を伴う群では伴わない群と比較して、罹病期間が長く、パニック発作の発症頻度が高く、恐怖性回避が強く、治療反応が悪かった40)。Coryellらの研究によれば、不安障害の症状のないうつ病の快復までの期間の中央値は14週であったのに対して、パニック発作のあるうつ病では20週と回復が遅れる結果が報告されている41)。前者の患者群に比べ後者の患者群では抑うつの期間が長い。そして、5年後の予後では、躁状態の発症がより多く、薬物中毒がより頻回で、心理社会的適応障害がより強かった。パニック障害の生涯自殺企図頻度は7.0%、大うつ病のそれはほぼ同じく7.9%で、精神障害のない標本では1%であるのと比べて明らかに高い。それがパニック障害と大うつ病を合併すると19.5%と、2倍以上の頻度となることが報告されている42)。StavrakakiとVargoもその総説において、不安とうつが混在すると社会機能の障害が激しく、慢性化の傾向が強く、治療抵抗性で予後不良であると述べている43)

パニック障害とうつ病の合併例に対する実際の治療
 文献的にみてみると、SSRIの一種であるフルオキセチンは不安障害に伴ううつ病には効果がないという報告がなされているが44)、一方、フルボキサミンが不安障害に併存する大うつ病(不安うつ病)にコントロール試験で有効であったと報告されている45)。もっとも、この研究の対象数は30例で、その内パニック障害は11例にすぎないので、はたして、パニック性不安うつ病にフルボキサミンが有効であったのかどうかは判断ができない。著者の経験からいえば、軽度から中等度のパニック性不安うつ病にはフルボキサミンは有効であるが、重度のパニック性不安うつ病ではフルボキサミンのみでは効果が得られない。パニック性不安うつ病の薬物療法は、基本的にはパニック障害の治療と同じでよい。すなわち、当初からlong-actingのベンゾジアゼピン系抗不安薬と抗うつ薬を併用投与する。但し抗うつ薬はパニック障害だけの時よりも投与量を漸増する。抗うつ薬としては、昨年(1999)5月から使用可能となったSSRI(フルボキサミン)を第一選択とする。ただし、この薬を服用した患者の約20%が悪心・嘔吐を訴えるので、使用できないケースも稀ならずある。このような場合はテプレノンのごとき胃粘膜保護剤を併用して少量投与(12.5mg)から始めるか、イミプラミンに変更する。重症のパニック性不安うつ病には、バルプロ酸の併用が有効のことがある。治療抵抗性の情動不安定を伴うパニック障害にバルプロ酸ナトリウムが奏効したという報告46)がカナダからなされており、著者もこのような経験を報告した47)
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貝谷 久宣
山中 学
熊野 宏昭

Hisanobu Kaiya : 医療法人和楽会 パニック障害研究センター, 医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック
Manabu Yamanaka,Hiroaki Kumano(助教授) : 医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック,東京大学医学部付属病院分院 心療内科
治療学 Biomedicine & Therapeutics vol.34 no.12, 2000