フクロウblog

医療法人和楽会の「フクロウblog」です。治療や講演会などの様々な情報をお届けします。

病(やまい)と詩(うた)【42】 ードナルド・トランプという症例ー (ケセラセラ vol.88 春)

東京大学名誉教授 大井 玄

 

ドナルド・トランプ第45代アメリカ大統領は、認知症高齢者の異常精神症状に強い興味を抱く老医にとっては、格好の観察対象である。
なぜなら、認知症高齢者の易怒性と底の割れた「嘘」をついて平然としている点において両者は酷似するからだ。
「もの取られ」のような被害妄想を抱く認知症高齢者には決して逆らってはいけないのは、その介護者の広く知る事実といえよう。もし訂正したりするならば彼は激高し、易怒性、夜間せん妄といった周辺症状が悪化するばかりだからである。九十歳であっても「三十歳」というならそれを受け入れるのだ。
なぜなら「妄想」も「嘘」も彼にとっては真実だからだ。

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新しい刺激を求めるということ (ケセラセラ vol.88 春)

医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック 院長 吉田栄治

 

シャープペンシル

私は本を読むとき、大事なところに線を引く癖があり、あとから修正もできるように、少し大きめの消しゴムが付いたシャーペンをいつも使っていまして、読書の際には必需品としています。ちょっとしたシャーペンマニアのところもあり、いろいろな種類のものをもう何本も持っているのですが、昨年末頃に、淡い金色の新しいシャーペン(もちろん消しゴム付きです)を文具店で見つけて購入しました。買ったばかりのころは、この淡い金色がなかなか良い色合で、使うたびに新鮮な気分になり、新しいシャーペンはやっぱりいいなあと、ちょっとほくそ笑みながら使っていました。今は大分慣れてきてしまって最初の感激はなくなっているんですが、今もお気に入りのシャーペンではあります。

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睡眠障害について(3) (ケセラセラ vol.88 春)

医療法人和楽会 横浜クリニック 院長 海老澤尚

 

3.むずむず脚症候群

夜、寝るために布団に入ってじっとしていると、足やふくらはぎなどにむずむずする、ぴくぴくする、痒い、痛い、火照る、などという「異常な感覚」が発生し、体を動かしたくなる睡眠障害です。足を動かしたり歩いたりすると「異常な感覚」は楽になりますが、布団に戻ってじっとするとまた悪化します。じっとしているとき、特に夜の時間帯に悪化するのが特徴です。「異常な感覚」は腕や体幹に生じることもあります。この「異常な感覚」のせいでなかなか寝付けなかったり、夜中に目が覚めた時もう一度寝るのに支障が出たりします。良く眠れないために、昼間、疲労感や眠気を感じます。妊娠や貧血、鉄分の欠乏、抗うつ薬やカフェイン、アルコール摂取が関わっている場合があります。男性より女性に多いとされ、日本人の数%程度に見られます。症状を軽くするお薬があります。睡眠中、周期的に脚がぴくんぴくんと動くために睡眠が浅くなったり目が覚めたりする、周期性四肢運動障害という睡眠障害を伴っている方が多いです。

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自分を振り返る1 ミシガン大学時代 (ケセラセラ vol.88 春)

医療法人和楽会 なごやメンタルクリニック 院長 原井宏明

 

誰でもうつ病になる可能性がある?

うつ病と聞くとどんなことを想像するでしょうか?留学と聞くと?読者の方はそれぞれについていろいろな考えがあるでしょう。しかし、留学中にうつ病というのはどうでしょうか?精神科医にとっては留学中に心を病むという話は比較的よく経験する話です。神戸大学病院や肥前療養所などで勤務している時、外国から日本に来てから不調をきたした方を担当することがありました。「精神的に弱っているときには環境の大きな変化は良くない」というのは誰もが信じる一種の常識でしょう。

私の留学でも環境の激変がありました。言葉はもちろん気候や食事、習慣、何から何までも違います。そして何よりも友人や家族から引き離されます。アナーバーの街の冬の寒さは札幌以上でした。睫毛が凍って開かないというのは生まれて初めての経験でした。入った寮は二人部屋で、これも初めて。大学時代に付き合っていた彼女との別れもありました。

結論から言えば、私は無事に留学を終えて帰国し、神戸大学精神科の研修医になり、それから今まで精神科医の仕事を続けています。2008年1月になごやメンタルクリニックに来てから今までの9年2ヶ月、父の葬儀を除いて一日も休まず働き続けています。昔のことを思い出すときには楽しかったことを思い出します。1年間の留学を終えて日本に戻ったとき、研修医生活のほうがよほどストレスだったとか考えます。

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不安のない生活(32) 呼吸について(5) (ケセラセラ vol.88 春)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

 

究極の不安の病パニック症の主な症状の一つとして息切れと窒息感がある。呼吸と不安は密接な関係である。この両者の関係について興味深い実験がなされている。指先に電気ショック用の電極が取り付けられ、今から数分以内に電気ショックが来ますと被験者に伝えられる。この人はいつ電気ショックが来るか今か今かと不安でいっぱいになる。このような不安を予期不安と呼んでいる。予期不安が高まった時呼吸数がどのように変化するかを調べながら脳波がとられた。この実験の前に不安体質についての心理検査がなされており、不安体質の程度が強い人ほど呼吸数の変化が著明であったことが分かった。また、脳波から脳内の電源を推定すると、扁桃体部と推定される脳部位の活動が呼吸リズムと同期していた。脳外科手術の時に扁桃体を微弱な電流により刺激すると呼吸数が増大することが観察されている。これは扁桃体が刺激されると脊髄にその信号が伝わり横隔膜を収縮させ吸気活動が生じるからである。この扁桃体は不安・恐怖や怒りの中枢となる脳部位である。

扁桃体で生じる情動は呼吸とお互いに影響しあっている。呼吸がゆっくりとなれば、いやな感情も薄れていく。気分が落ち着かない時やイライラしている時自然に深呼吸をすることがある。これは理にかなったことである。また、ストレスが高まり困ってしまった状態では無意識のうちにため息が出る。これも、生体の自然な反応である。

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