フクロウblog

医療法人和楽会の「フクロウblog」です。治療や講演会などの様々な情報をお届けします。

病(やまい)と詩(うた)【41】 ーおれおれ詐欺とトランプ大統領ー (ケセラセラ vol.87 冬)

東京大学名誉教授 大井 玄

 

仕事柄、わたしの付き合う人には認知能力のおとろえた人が多い。もちろん、わたしも確かに認知能力がおとろえている。彼らとの違いは、わたしには未だに好奇心が旺盛で、しかもすぐに感心したり、驚いたりするところが残っている点だろう。それを除けば、わたしは文句のない彼らの一員である。
そのせいだろう。おれおれ詐欺の話をきくと義憤に駆られ、また言いようない悲しさを感じる。
おれおれ詐欺の古典的手口を心理的に解析するならば、詐欺師はまず、息子を装い、他者の金を使い込んだというような話をでっちあげ、老母の不安を掻き立てる。窮地にいる「息子」を救うため、老母はため込んだへそくりを指定の口座に振り込み、ほっと安堵の息をつく。

ここで重要なのは、「強い不安」を掻き立てること、と同時に、金を払えば全てうまく行くのだという「希望」を持たせることである。と同時に明らかなことは、老母は疑ったり、疑問を感ずることを中止していることだ。つまり「判断停止」をしており、つよく認知能力の衰えが窺われる。怪しい点は少し考えれば出てくるのだがそれをしない。そこがますますこちらの悲憤を強くするのだ。
認知能力の衰えかかった老母だけの話であるなら、テレビで「おれおれ詐欺に気を付けよう」といったキャンペーンをしたり、地域の警察から電話をして注意を促すという手もあろう。
しかし社会の多くの人が不安を抱いているときはどうだろう。テレビやパソコンや新聞などの通信手段を活用し、不安を掻き立て、それを怒りに変え、特定の目標に向けさせることもできよう。
拙著『痴呆老人は何を見ているか』で記したように、われわれはそれぞれ程度の異なる痴呆である。既に社会に存在する「不安」が掻き立てられ、それが「怒りに」転化させられたとき、怒りを不安の原因と見なされるもの、たとえば、社会のマイノリティーやこれまでの政治体制に向くのは、自然な心理的ダイナミズムであろう。

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1996年に何をしていたか? (ケセラセラ vol.87 冬)

医療法人和楽会 心療内科・神経科 赤坂クリニック 院長 吉田栄治

 

年の瀬もせまり、ケセラセラのこの原稿を書いている今、2016年も終わろうとしています。この記事が出るのは年が明けた2017年(平成29年)の1月かと思います。皆様、良き年を迎えられましたでしょうか。

今回の題名は、ちょっとおかしな題名ですね。1996年って何のこと?という感じですね。実のところ、この年に特別の意味はなく、たまたまの話なんです。

以前にもちょっと書きましたが、土曜日は月に2回ほど同級生の病院に出向きまして、職員に対するメンタルヘルスの仕事をしています。そちらからの車での帰り道は、いつもカーラジオでショコタン(中川翔子さん)がMCを務める『アニソン・アカデミー』というアニメ・ソングの番組を聴いています。私が知っているのは1970年代くらいまでのアニソンで、新しい歌は知らないものばかりなんですが、ショコタンのハイテンションな解説や、ゲストで来られたアニソン歌手の方達の体験談などが、なかなか面白くていつも聴いています。

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睡眠障害について(2) (ケセラセラ vol.87 冬)

医療法人和楽会 横浜クリニック 院長 海老澤尚

 

2.睡眠時無呼吸症候群

眠っている間に呼吸が止まったり低下する疾患で、気道(空気の通り道)がふさがるのが主な原因です。使い古して弱くなったストローで勢いよくジュースを飲もうとすると、吸い込む勢いでストローがつぶれ、うまく吸えない経験をした方もおられるのではないでしょうか。睡眠時無呼吸症候群の場合は、ストローの役割をする気道が、肥満・睡眠中に気道の形を維持する筋肉の緊張がゆるむ・舌が喉の奥をふさぐ、などで狭くなっています。狭くなった気道を通して空気を吸い込もうとすると、気道の周囲が振動していびきになります。空気を吸い込む勢いで気道が完全にふさがると、いびきも呼吸も止まって無呼吸になり、血液中の酸素濃度が低下することもあります。低酸素状態が続くと苦しいので、無意識に睡眠を浅くして筋肉の緊張を高めたり、姿勢を変えることで、気道が開いていびきと呼吸が再開します。息が詰まったような苦しさや、自分のいびきの音によって目が覚めることもあります。

こうしたことを睡眠中に繰り返すため、深く眠れず、睡眠時間が長い割には日中に強い眠気を感じたり、体がだるくなったり、頭がぼんやりして集中力が低下したりします。夜の頻尿や、目が覚めた時の口の渇き、頭痛などを伴うこともあります。うつなどメンタルの症状を悪化させることもあります。交感神経系が興奮し、睡眠時無呼吸症候群が長期間続くと高血圧や動脈硬化、糖尿病、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクが高くなります。

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赤ちゃんを抱っこする (ケセラセラvol.87 冬)

医療法人和楽会 なごやメンタルクリニック 院長 原井宏明

 

「クリニックの院長はストレスたまりませんか?」

メンタルクリニックの院長の仕事は他人の悩みの話を聞くことから始まります。おそらく誰でも他人の悩みを聞くのはあまり楽しいことではありません。聞き上手を自慢している方でも、朝から夕方まで数十人を相手しなさい、と言われれば「大変!」と思われるようです。私自身、20年間国立病院で働いているときに診ていた患者さんの数は多くても一日に30人ぐらいでした。一日の患者さんの数を知ると、知り合いはもちろん、受診される患者さん当人からも「ストレスたまりませんか?」と聞かれます。9年前、なごやメンタルクリニックに来たばかりの私もそう思っていました。そして、次にくる質問は「先生のストレス解消法は?」です。

結論から言えばなんとかなるものです。名古屋に来てから9年がたちました。強迫症など最初の受診の理由になっていた症状が1/3以下になり、薬の種類も減って抗うつ薬1種類だけか、抗不安薬などと合わせても2、3種類ぐらいになり、薬の調整も不要になった患者さんが増えてきました。こうした患者さんは症状を治すためではなく、現状維持― 再発のリスクを下げるため― にクリニックに来ていただいていることになります。

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不安のない生活(31) 呼吸について(4) (ケセラセラ vol.87 冬)

医療法人和楽会 理事長 貝谷久宣

 

前回は、ヒトが死ぬ時は息を引き取るというが、実は息を吐いて亡くなるのだという話で終わりました。これには後日談がある。マインドフルネス学会の懇親会で藤田一照師にこの話をしたら、それは仏様が息を引き取ってくださるという意味ですとの解説だった。やはり坊さんは言うことが違うなと思った次第だ。

前々回には、坐禅をしている時は酸素消費量が20%前後減少し、これには脳での酸素消費の減少が主に貢献していることを記した。脳の酸素量が減少すると相対的に炭酸ガス濃度が上昇する。延髄の呼吸中枢にある化学受容器は血液中の炭酸ガス濃度が上昇すると呼吸を促進させる方向に作用する。この化学受容器を持つ神経細胞はセロトニンという神経伝達物質を生成するニューロンである。炭酸ガス濃度が上昇するとこのセロトニン神経が活発になることが明らかにされている。その時、延髄にあるセロトニン神経だけでなく縫線核により多くあるセロトニン神経も活発になる。その結果セロトニンが放出されればセロトニンの神経静穏作用や抗うつ作用が現れることになる。前述した富士山のような高い山に登ると気分が清々しくなることや坐禅で静謐な気分になることはこのセロトニンと関係しているようである。

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