最近あらたに登場した抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)”パロキセチン(薬品名パキシル)”は、本邦で初めてパニック障害の効能・効果を取得している。そこでパニック障害の病態と治療について、貝谷久宣氏に伺った。

パニック障害

 パニック障害とは、激しいパニック発作ではじまる不安障害です。

 何の前触れもなく、いきなり動悸が激しくなり、息苦しさ、冷や汗、めまいといった症状が加わり、気がつくと手足がブルブルと震えている。

 こうしたパニック発作は非常に強烈な恐怖感と不安感を伴い、患者は何が起こったかもわからず、もしかしたら心臓発作か呼吸困難に陥り、このまま死んでしまうのではないかという恐怖に襲われ、救急車で病院へ運ばれる例もしばしばみられます。しかし、病院に到着した頃には発作のピークは過ぎ去り、潮が引くように、激しい発作症状はみられなくなります。病院ではさまざまな検査を受けますが、結局なにも異常はみられません。多くの場合、パニック発作は繰り返し起こります。そのため、また発作が起こるのではないかと恐れ、発作によって大変な事態を招くのではないかと心配し、発作を恐れるあまり日常生活が大きく制約されることもあります。

 再び発作が起こることへの恐れを"予期不安"、発作を恐れるあまり日常の行動が制限されることを"広場恐怖"と呼びます。それぞれの症状については後に説明しますが、パニック障害は予期しないパニック発作が繰り返し起こり、次の発作を心配し続け、または発作により大変なことが起こると悩むかまたは発作を予期し生活状況が変化する病気です。

パニック障害の頻度

 パニック発作はどのくらいの頻度で起こるのでしょうか。内科を受診する100人に2〜6人はパニック障害をもつという統計調査があります。また、一般市民100人のうち0.5〜2.5人がパニック障害にかかっているか、過去にかかったことがあるといわれています。またパニック障害と診断されるほど重症ではなく、軽いパニック発作だけを経験する人は、その7〜8倍にものぼるといわれています。

 このパニック障害が『精神障害の診断・統計マニュアル』(アメリカ精神医学会)に登場したのは1980年のことで、すでに20年が経過していますが、パニック障害という病気はまだ日本の医療界でも充分に理解されているとはいえません。最近行われたアンケート調査で、パニック障害の症例を何と診断しているか調べたところ、多くの医師が「心臓神経症」、「自律神経失調症」、「過呼吸症候群」と診断していました。精神神経科以外の臨床医でパニック障害と診断したのは実に2%に過ぎなかったのです。

パニック障害の原因

 パニック障害の原因については、まだ解明されていないことも多く、詳細には分かっていませんが、ノルアドレナリン、セロトニンおよびGABAという脳内神経伝達物質が関連しているといわれています。何らかの原因によりノルアドレナリン神経系が過剰興奮した際、パニック発作が誘発されるといわれています。またセロトニンやGABAといった神経伝達物質がこれらのノルアドレナリン神経系の調節を行っているともいわれており、すなわちパニック障害は脳内の神経伝達物質のバランスに変調をきたしている状態といえます。

パニック発作の症状

 パニック発作を起こしたときの症状としては次のようなものがあります。
(1) 心臓がどきどきする、または心拍数が増加する
(2) 汗をかく
(3) 体や手足の震え
(4) 呼吸が速くなる、息苦しい
(5) 息がつまる
(6) 胸の痛みまたは不快感
(7) 吐き気、腹部のいやな感じ
(8) めまい、不安定感、頭が軽くなる、ふらつき
(9) 非現実感、自分が自分でない感じ
(10) 軌道を逸してしまう、狂ってしまうのではないかと感じる
(11) 死ぬのではないかと恐れる
(12) しびれやうずき感
(13) 寒気またはほてり
 こうした13の症状のうち、4つ以上の症状が同時に起こる場合にパニック発作、3つ以下の場合は「症状限定発作」と診断しますが、このほかに日本人では口の渇きや腰が抜けたような状態(下肢の脱力感)を訴える場合がしばしばあります。

パニック発作の特徴

 パニック障害におけるパニック発作の特徴は、まず何の原因もなく突然起こることです。それも誰もが少しは緊張するような状況下ではなく、むしろ1日のうちで最もリラックスしている場合に起こることが多いのです。また患者の約半数は睡眠中にパニック発作に襲われています。繰り返し発作が起こるのもパニック発作の特徴です。

 初めてパニック発作を起こした後、普通は数日から数週間ぐらい後に2回目の発作が起こります。そして2回目以降は比較的短期間に連続して発作が起こるようになります。重症の場合は1日に数回の発作を起こす場合もあり、1週間に4回以上の発作が起こり、それが4週間以上続く場合は重症と考えられます。

予期不安

 発作を何回も経験していると、発作が再び起こるのではないかと心配になり不安が生じます。予期不安とはこうした症状です。予期不安は直接の危機が目の前にあるのではなく、危機に対して抱く漠然とした不安で、具体的には「発作症状がまた起こるのではないか」、「発作により死んでしまうのではないか」といった不安を訴えます(表1)。このような予期不安は1日に数回、フッと頭をかすめる軽度の人から、1日中頭から振り払うことができずに仕事も手につかない状態になる人までさまざまです。発作の回数が減っても、長い期間にわたってなかなか消失しないのが、予期不安の特徴です。
表1 : 予期不安の具体的内容
(1) 発作症状がまた起こるのではないか
(2) 発作により病気になるのではないか
(3) 発作の原因は重篤な身体疾患(心臓病、肺がん)ではないか
(4) 死んでしまうのではないか
(5) 気を失ってしまうのではないか
(6) 気が狂ってしまうのではないか
(7) 事故を起こすのではないか
(8) 発作を起こしても助けてくれる人がいないのではないか
(9) 発作を起こした場所からすぐ逃げ出せないのではないか
(10) 人前で自分が取り乱してしまうのではないか
(11) 人前で倒れたり吐いたり失禁したりするのではないか、他人に迷惑をかけるのではないか
広場恐怖

 パニック障害においては、パニック発作を起こした場所や状況は発作の原因とはまったく関係がありません。しかし患者はパニック発作の恐ろしい経験とそれが起こった場所を深く結びつけて考えます。そこで発作が起こった場所に来ると「またパニック発作が起こるのではないか」という予期不安をもち、特定の場所が恐怖の対象となって、避けるようになります。またパニック発作が起こったときにすぐに逃げ出せない場所や助けを呼べない場所も恐怖の対象となります。広場恐怖とはこのように特定の場所や状況を恐れ、そこを避けようとする行動(回避・逃避行動)をいいます。

 広場恐怖の人が恐れる場所や状況を表2に整理しますが、パニック障害の患者の約80%以上がこのような広場恐怖をもっています。パニック発作を一度経験しただけで、このような回避・逃避行動がみられることもありますし、何回も発作を繰り返しているうちに、広場恐怖が明らかになっていく場合もあります。

 広場恐怖の症状の重い人は家から一歩も外に出られず、自分のそばにいつも誰か頼りになる人がついていないと不安状態がおさまらないようになり、友人や家族などとの人づき合いを絶えず求めたりします。
表2 : 広場恐怖の人が恐れる主な場所と状況
(1) 広い場所、人ごみのなか
(2) 電車、バス、地下鉄、飛行機などの交通機関に乗ること
(3) トンネル、橋、エレベーター、美容院や理髪店、歯科の椅子など、狭い場所に閉じ込められること
(4) 家に一人でいること、家から離れること
うつ病の併発

 パニック障害が正しく診断されず、適切な治療を受けていない状態が続くと、うつ病を併発してくる場合が多くみられます。このような患者では気分が沈みこんで憂欝感が強いこともありますが、むしろ元気が出ない、やる気がない、興味がもてない、感動しないといった、精神的エネルギーの低下を示す意気消沈した状態が多くみられます。このようにパニック発作が長引いたために出現するうつ病がある一方で、パニック発作が消失した頃にスーッと忍び寄ってくるうつ病もあります。こうした症例の場合は医師がその気になって問診しないと見逃す場合が多く、患者はなんとなく活気がない、特別に憂欝ではないが考えてみると昔のように生活が楽しくない、日常生活にときめきがないと応えます。

残遺症状(非発作性不定愁訴)

 パニック発作の治療によって発作症状が治っていく途中や治療が不十分であるとき、また長期間治療されずに放置された場合は、突発的な発作症状はだんだんと少なくなりますが、その代わり発作の中心的症状が2つ3つ持続的に現れるようになります。このような症状を残遺症状(非発作性不定愁訴)と呼びます。残遺症状は発作時より軽いのですが、1日のうちのかなりの時間、持続的に起こるため、患者にとっては大変不快なものといえます。残遺症状はパニック障害を発症してから半年から数年して現れるので、ある一定期間を経過した患者は残遺症状だけを訴えることになります。そのためにパニック障害と診断されることはほとんどなく、「自律神経失調症」、「心気症」と診断されることが多いのが現状です。

パニック障害の鑑別診断

 パニック障害の診断には「症状に対応する身体の異常がないこと」が前提となります。パニック発作とよく似た症状を示す病気には、甲状腺機能亢進症や心血管系疾患、てんかんなどがあり(表3)、診断にあたってはこうした疾患の有無を検査する必要があります。多くの患者はパニック発作の後、まず身体的疾患を疑い、徹底的な検査を受けた後に、どこにも異常がないために悩んでいる人がほとんどです。

 また一般に、こうした疾患を間違ってパニック障害と診断することはまれで、むしろ、こうした疾患が治った後に発作症状が続いて、パニック障害になる場合が多いようです。また心疾患などを合併しているパニック障害もありますので、その点も注意が必要です。基本的には甲状腺機能障害を除外し、予期不安が強く、軽い広場恐怖がある場合はパニック障害と診断して積極的に治療していきます。
表3 : パニック発作とよく似た症状の病気
喘息 不整脈
心筋症 狭心症
心筋梗塞 クッシング症候群
電解質異常 甲状腺機能低下症
甲状腺機能亢進症 低血糖
副甲状腺機能亢進症 更年期障害
褐色細胞腫 肺塞栓症
側頭葉てんかん メニエール病
アルコールの禁断症状 覚醒剤中毒
パニック障害の治療

 パニック障害の治療目標は、まずできるだけ早く発作をなくし、さらに激しい発作だけでなく、小さな発作や残遺症状、予期不安、広場恐怖、さらには併発しているうつ病が改善するまで、きちんと薬でコントロールすることです。

 そのため治療は長期にわたりますので、長期投与における安全性と有効性が確立した薬剤、さらに予期不安など二次的症状を改善する効果のある薬剤を選択することがポイントです。

 具体的には、保険適応ではありませんが効果発現が早いベンゾジアゼピン系抗不安薬や、新しく保険適応されたSSRIパロキセチン(製品名:パキシル)を処方します。パロキセチンはすでに欧米ではパニック障害に広く使用されている薬剤です。パロキセチンの優れた点は、パニック発作に加え、予期不安やベンゾジアゼピン系抗不安薬でなかなか改善しない広場恐怖に対しても効果を示すところです。また、併発するうつ症状も改善します。

 また、パニック障害は時と場所を選ばずに発作が襲ってくる病気なので作用時間が長い薬ほど望ましく、薬の作用が切れかかるとリバウンドで不安状態をつくり、発作が起こりやすくなります。その点でも1日1回投与のパロキセチンは作用時間も長く、服薬が簡便で使いやすい薬だと思います。

 パロキセチンが日本で初めてパニック障害の効能・効果を取得したことは、治療に対するその有用性への期待ももちろんですが、なによりも、日本の医療でパニック障害という病気が認められたという大きな意義があります。

 こうした薬物療法で約8割〜9割の患者さんの症状をコントロールすることができます。残りの約1割〜2割の患者さんは強い広場恐怖をもっていますので、薬物治療と共に行動療法によって症状を改善していきます。

服薬指導

 今でも、パニック発作に襲われて病院に駆け込んで、「どこも悪くない」、「気のもち方で治る」といわれる患者さんは少なくありません。そのためにパニック障害という病気があると知って、涙が出るほどうれしかったという患者さんもいます。そこでまず、パニック障害が脳の機能障害によるもので、決して気持ちのもち方や性格が原因ではないこと、また死に関わるような病気ではないこと、さらに脳の機能障害は身体の病気と同じく薬で治療することができることを説明します。

 そして、パニック障害は慢性の疾患であり、服薬を中断すると再燃しやすいこと、治療目標は単に発作を抑えるだけでなく発作に随伴する不安症状を改善することであることを納得してもらいます。

 また、長期間の服用でも薬の効果は持続し、長期間服用することで、いずれ少量の薬でも症状をコントロールできるようになることを説明し「心配しないで、ご飯を食べるようにきちんと毎日薬を飲みなさい」と指導しています。

 服薬プランを具体的に説明することも治療に対する不安を解消する意味で大切だと思います。一般的にはまず、症状を観察しながら薬の量を徐々に増やして、発作を抑える適切な量に調節します。その後症状がとれるまで同量服用しますが、症状が消えてもすぐには薬を減らしません。ここで減らしたり服用を止めると多くの方が再発するからです。したがって症状が消えてもさらに半年から1年間は薬の量を減らさずにそのまま服用を続け、その後さらに半年から1年かけて徐々に薬の量を減らしていきます。

 生活面では、パニック発作の誘発物質であるカフェインやお酒、タバコを控えること、適度な運動を行い、風邪に気をつけて規則正しい生活を心がけることを指導しています。
コメンテータ 貝谷 久宣氏
医療法人 和楽会理事長
なごやメンタルクリニック院長
心療内科・神経科赤坂クリニック
日経ドラッグインフォメーション 2001年2月10日号