Effects of Cognitive-behavioral Group Therapy Program for Patients with Panic Disorder with Agoraphobia.

はじめに

 パニック障害の治療法として、薬物療法と認知行動療法の組み合わせが有効であると指摘されている(APA、1998)。薬物療法としては、多くの治療薬が開発され、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、モノアミン酸化酵素阻害薬、三環系および四環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬などの投与が有効であることが報告されている(APA、1998)。一方、薬物療法と同時に、発作の低減、身体感覚に対する恐怖および広場恐怖(回避行動)の改善に焦点を当て、さまざまな行動的・認知的な技法を用いた認知行動療法プログラムが開発され、その効果が確認されてきている(APA、1998)。これまで、認知行動療法(CBT)は、薬物療法が実施された後の残存症状である発作と予期不安のほか、広場恐怖の改善においてとくに大きな治療効果を示している(APA、1998)。

 Weissmanら(1997)によれば、パニック障害患者の1/3から1/2は広場恐怖を合併し、臨床場面では、より高率の広場恐怖の見られていることが指摘されている。わが国においても貝谷・山中(2001)は、パニック障害患者の3/4に広場恐怖が認められることを報告している。さらに、広場恐怖の程度がパニック障害の治療効果を大きく左右し、広場恐怖を克服することによって発作の程度も変化するとScottとStradling(1998)は指摘している。以上のことを考えると、パニック障害の治療には、パニック発作の低減を目的とする薬物療法と、予期不安・広場恐怖の改善をねらった認知行動療法の組み合わせが必要であり、その臨床における実用が期待されている(APA、1998)。

 さて、パニック障害に対するCBTで用いられる技法にはさまざまな要素が含まれている。坂野・貝谷(1999)は、エクスポージャー(不安場面への曝露)とリラクセーションによって不安を消去し、適切な生活行動の獲得をねらうとともに、患者の認知(考え方)を修正し、症状をセルフ・コントロールできるよう援助を行うというCBTプログラムを提唱している。具体的には、(1)不安に関する認知行動的心理教育、(2)予期不安の低減と回避行動の消去に関する認知行動的心理教育、(3)身体反応のコントロール法の導入、(4)エクスポージャーの導入と回避行動の消去、(5)行動と認知の修正(不安管理訓練と対処行動の獲得)、という複数の技法を組み合わせた治療プログラムが個人療法として実施されている。

 ところが、外来治療において複合的なプログラムを個人療法として実施する際には、(1)治療者が一人の患者に割くことのできる時間に限りがある、(2)治療技法によってはホームワークを課することが多い、(3)エクスポージャーそのものが不安を苅逼させるという特徴を持っているために、恐怖が十分に弱まらない状態で患者がエクスポージャーを中断すると逆に不安が増強され、ドロップアウトしかねない、といった問題のあることが指摘されている(中島、1996)。こうした問題を克服するために、集団療法という実施形態を用いてCBTを行うことができる。

 集団療法の種類にはさまざまあるが、中でも認知行動的な技法を行う集団認知行動療法が最近の主流となっており、その治療効果が注目を集めている。Rose(1998)によれば、集団認知行動療法(CBGT)は、グループの中で認知的、行動的な介入技法とグループ手続きを用いて、参加者のコーピングスキルを高めるとともに、彼らが抱えている問題を解決し、改善していくアプローチであると定義されている。パニック障害に対するCBGTは、個人療法と同等に有効であり、フォローアップの段階でも改善が引き続き見られることがこれまでの治療研究によって確認されている(APA、1998)。また、Gournay(1989)によれば、集団療法には、広場恐怖という苦痛を経験しているのは自分一人ではないことに患者が気づき、同じ目標を共有し、他の患者の成功体験をモデリングできるという利点があるという。さらに、LangとCraske(2000)は、パニック障害に対するCBGTの利点について以下のように指摘している。すなわち、(1)集団療法は経済的な原因で治療を受けられなかった個人に治療の可能性を提供する、(2)認知行動療法を実施できる治療者の不足という問題の解決に役に立つ、(3)グループメンバーと一緒にinvivoエクスポージャーを実施し、他のメンバーの成功体験をモデリングし、強化を受けることができる、(4)集団の形態は不安管理スキルを身につけ、特定の場面で感じた恐怖を克服することの補助手段となる、という点である。

 ところが、パニック障害に対するこれまでのCBGTに関する研究を概観すると、グループの構造に焦点を当て、構造化されたグループとそうでないものによるメンバー間の関係と社会的凝集力の違いを検討し、そうした違いで症状の改善が異なるかどうかについて研究がなされている(Hand、Lamontagne & Marks、1974)。また、エクスポージャーをグループで行い、他の治療法との比較をしたり(たとえば、Zitrin、Klein & Woemer、1980)、集団療法と個人療法といった治療形態においてCBT(たとえば、Neron、Lacroix & Chaput、1995)、あるいは、特定の治療法の効果(Lidren、et al、1994)を比較する研究がなされている。これらの研究はいずれも、CBGTプログラムの作成とその効果の検討に焦点を置かず、異なる群における特定の治療法の比較に過ぎないものである。また、Evansら(1991)は、2日間の集中ワークショップ形式で簡便なCBGTプログラムを行ったが、広場恐怖に主な焦点が当てられ、効果の判定に用いられる指標は回避行動の改善に関するものが多く、プログラムが重症である患者に顕著な効果が見られないことや、初診の患者にそうしたプログラムがより適切であることを報告している。

 以上のことからわかるように、各研究において用いられている認知行動的技法は異なっており、治療効果の検討は特定の技法の効果に関するものが多い。したがって、総合的にパニック障害の症状を捉え、そうした症状の改善をはかるプログラムの開発が必要であると考えられる。一方、最近では、パニック発作の改善に主な焦点を当て、広場恐怖を伴うパニック障害に対する認知的・行動的技法を取り入れたプログラムが開発されている(たとえば、Lang & Craske、2000;Scott & Stradling、1998)。しかしながら、これらの研究はプログラムの開発と実施方法に関するものであり、その治療効果を詳しく検討したものは見当たらない。このように考えると、パニック発作と広場恐怖のどちらか一方に焦点を当てて検討するだけではなく、バニック障害の症状を認知・行動・身体的側面から総合的に取り上げ、そうした症状を改善するCBGTプログラムを開発するとともに、その治療効果を検討することが必要であると考えられる。

 そこで本研究では、わが国の現状を考慮に入れ、わが国で実行可能なCBGTプログラムを開発し、その実施を試みる。また、特定の技法の効果だけではなく、心理・生理指標を用いて改善のアセスメントを行い、プログラムの全体的効果を総合的に検討する。さらに、患者のセルフ・コントロール能力の向上に焦点を当て、プログラムの効果をセルフ・コントロールという観点からも評価する。

 ところで、パニック障害とうつ病の併発率は50〜65%であることがこれまでに指摘されている(APA、1998;Scott & Stradling、1998)。また、うつ病を併発した場合は、自殺企図、社会的生活や結婚生活における障害、精神作用性薬物の使用、物質乱用の危険性が高いことが報告されており(Markowitz et al、1989)、抑うつ症状の重篤度がパニック障害の治療効果に影響を及ぼしていることが指摘されている(Scott & Stradling、1998)。したがって、治療効果を検討するときには、パニック障害の症状だけではなく、抑うつ症状の変化についても検討する必要がある。そこで、本研究では、パニック障害の主な症状である不安と回避行動、二次的症状である抑うつ症状に焦点を当て、CBGTプログラムの効果について検討を行う。

I 方法

 対象者:心療内科、神経科Aクリニック(東京都内)を受診し、同クリニックにおいて開催されたパニック障害に対する集団認知行動療法プログラムに参加した32名(男性9名、女性23名)のうち、フォローアップも含め全プログラムを終了した、DSM-IVの診断基準を満たす広場恐怖を伴うパニック障害患者16名(男性6名、女性10名、平均年齢:42±9歳)。なお、参加者は全員、セミナー期間中主治医によって一定量の抗不安薬と抗うつ薬が処方されていた。

 手続き:同クリニックで実施された「外出恐怖とパニック障害を克服するためのセミナー」にて自記式調査を行った。

 質間項目:(1)State-Trait Anxiety Inventory日本版(清水・今栄、1981):Spielbergerによって作成され、脅威的状況におかれたときに苅逼される一過性の不安状態を測定するState-Formと、個人の性格特性としての不安状態を測定するTrait-Formに分けられ、20項目4段階評定で回答を求めるものである。(2)Self-rating Depression Scale(SDS)日本語版(福田・小林、1983):Zungによって作成された患者の抑うつ症状を20項目4件法で自己評価するものである。(3)気分調査票(坂野・他、1994):個人の気分の変化を短時間に、かつ客観的、多面的に測定できるものであり、「緊張と興奮」、「爽快感」、「疲労感」、「抑うつ感」、「不安感」といった五つの下位尺度が含まれ、40項目4件法で回答を求めるものである。(4)Mobility Inventory for Agoraphobia(MI:Chambless、et al、1985):自己記入式の回避行動検査法であり、回避する状況を26項目に設定し、それぞれの状況に対して同伴者がいる場合と同伴者がいない場合のそれぞれにおいて回避行動の強さを5件法で評価するものである。

集団認知行動療法プログラムの内容:

 本研究では、「エクスポージャー(不安場面への曝露)とリラクセーションによって不安を消去し、適切な生活行動の獲得をねらうとともに、患者の認知(考え方)を修正し、症状をセルフ・コントロールできるよう援助を行う」こと(坂野・貝谷、1999)を治療目標とし、これまで実施されてきたCBT技法とプログラム(APA、1998;坂野・貝谷、1999;Lang & Craske、2000)を参考にして、表1に示すようなプログラムを作成した。
 本プログラムは、患者自身が改善目標を決め、行動を起こすきっかけとなる考えや気分を調整しながら、自分で発作や不安をコントロールし、思う通りに行動できるように援助を行うことを主旨とし、患者が外出恐怖とパニック発作および予期不安を克服することを目的としている。具体的には、患者が感じる日常生活中の不適応(たとえば、電車に乗れないことによる生活の不便さ)を明らかにし、認知行動的技法を用いて広場恐怖を改善するとともに、認知的身体的な症状の改善をはかり、セミナーを通してセルフ・コントロールスキルを身につけていくよう援助する。また、本プログラムは症状に対する患者自身のセルフ・コントロール能力の向上という点にも焦点を当て、患者自身がその時点で抱えている問題だけではなく、将来起こりうる問題に適切に対処できるよう援助するために、「発作や予期不安、または、回避行動といったパニック障害の症状を自分でコントロールできる」という自己効力感を高め、自己統制感を強める介入も取り入れた(坂野・貝谷、1999)。

 以下、表1に示されたプログラムの内容について具体的に説明する。

 本研究で開発されたCBGTプログラムは、基礎編、準備編、実践編(1)、実践編(2)の合計4セッション、および2ヵ月後のフォローアップから成り立っている。各セッションは「外出恐怖とパニック障害を克服するためのセミナー」と題したセミナー形式で行われ、所要時間はいずれも1〜1.5時間である。セミナーには二つのグループが同時進行できるようにセッションが組まれている。すなわち、1週目はAグループの基礎編を行い、次の週はBグループの基礎編を行う。そして、3週目はAグループの準備編を行い、4週目はBグループの準備編となっている。5週目には実践編(1)を行し、その1ヵ月後に実践編(2)を行う。実践編では、両グループが合流させて練習を行う。セミナーへの参加は必ず基礎編からスタートするが、準備編と実践編については、患者の都合に合わせてスケジュールを組むことができるよう配慮されている。ただし、4セッションの順序を入れ替えることはできない。セミナーの定員については、基礎編と準備編では、セッション時間内で各グループメンバーの様子に注意できるように定員を5人にした。一方、実践編はin vivoエクスポージャーを行うセッションであり、患者がより多くの人と交流し、お互いに勇気づけられ、グループメンバーを相互モデリングできるよう、基礎編と準備編を終了した2つのグループを合わせて定員10人でセッションを行った。なお、参加者の症状の重篤度が異なっており、軽症者をモデルとしたモデリングを行い、重症者の行動の活発性を引き出すよう心がけた。

 基礎編と準備編は、患者が問題を整理、自己理解し、自分に適した具体的対処法を学ぶ教育セッションである。基礎編では、約40分の時間を設けてパニック障害に関する基礎知識、とくに広場恐怖の形成と維持、不安のメカニズム、および不安と広場恐怖への対処法がテーマとして取り上げられている。また、症状を自分でコントロールするためのセルフ・エフィカシーをどのように強くするかを学び、患者が自ら症状に対処できるというセルフ・エフィカシーを持たせる。こうしたことによって、プログラムに参加している期間だけではなく、プログラム終了後でも患者が治療に自発的に参加し、自分自身で疾患を治そうとする態度の養成と、治療へのモチベーションを高め、セルフ・コントロール能力を高めるように心がける。さらに、認知行動的な介入に加え、集団の機能を生かして、参加者同士で親近感がもてるよう、セッションの始まりに約30分間を設けて、「1分間自己紹介」によって各自の症状、外出恐怖の内容と強さについて話し合い、治療者との間の交流をはかるとともに、メンバー間の自己開示と相互援助、相互フィードバックができるよう心がけた。また、基礎編終了時には、基礎編で取り上げられた心理教育の内容をどの程度理解したかを把握するための「自己理解テスト」と、不安場面をリストアップした不安階層表の作成を宿題とした。

 準備編は、症状を克服するための対処法を学び、自分に合わせた具体的方法を考え練習する「対処法の作成と練習セッション」である。準備編は基礎編の宿題のチェックからスタートし、「自己理解テスト」の答え合わせを行い、質問に答えながら、基礎編の内容に対する理解を深める。また、約20分で各参加者の不安階層表をチェックし、不安の度合いに段差をつけるよう作成方法を説明する。そして不安階層表にしたがってエクスポージャーをどのように実施するかについて理解してもらうとともに、その中からホームワークとする目標行動を一つ選択して、セミナー終了まで各自で練習を行い、その記録をとることを提案する。次いで、セルフ・モニタリング法を用いて「考え方と不安の関連性」について学び、苦手な状況に置かれた時に思い浮かぶ不適切な考えについて話し合い、それぞれの不適切的な考えに対して他のグループメンバーからのアドバイスを求め、その修正を試みるとともに、適切な考え方にポジティブフィードバックを与えていく。さらに、不安時の身体の変化に対処するために、約15分リラクセーションの役割と効果について説明し、呼吸法と筋弛緩法の練習を行う(呼吸法と筋弛緩法は、セミナー終了までのホームワークとして継続実施される)。さらに、「困ったときの対処経験談」をメンバー間で話し合い、望ましい対処法にポジティブなフィードバックを与えながら、注意の転換や自己教示や認知的再体制化法の説明を加え、メンバー間のモデリングとフィードバックをはかる。

 一方、実践編は現実場面を用いたエクスポージャーが中心であり、集団で電車に乗る練習が組み込まれている。実践編(1)と(2)ともに、乗車時間は40分程度に設定されている。また、基礎編と準備編では患者に補助者がつかないのに対し、実践編ではスタッフがともにセッションに参加する。実践編(1)では、患者に集団で行動するように伝え、スタッフとメンバー間の交流ができるように各患者に治療補助者が1名付き添い、リラクセーションや注意の転換等の方法を用いながら、それまで苦手としていたことができていることに気づかせ、自分で自分をほめる練習(自己強化)を行う。一方、実践編(2)では、サブグループを分けて練習を行い、1サブグループに1〜2名のスタッフが同行し(スタッフの人数はサブグループの数によって決められる)、グループ行動の中に個人練習を取り入れた。たとえば、一人で別の車両に乗ることによって「一人でできる」ということを体験し、自己強化の習慣を身につける練習を行った。なお、実践編(1)では、スタッフとメンバー間の交流に焦点を当てるものの、実践編(2)では、患者がなるべく一人で行動できるように心がけた。また、セミナー終了後もセルフ・エクスポージャーができるよう、その実施の際の注意点(たとえば、電車に乗る前の頓服薬の服用、リラクセーションの実施、注意の転換など)について説明し、セミナー終了後のセルフ・コントロールの予習を行う。なお、セミナー終了2ヵ月後に、セミナー中の改善点と変化および今後の注意点について各患者にフィードバックするとともに、2ヵ月後の予後を確認し、セミナーの成果が維持されているかどうかを確認した。

II I結果と考察

 1.状態不安と抑うつ感

 各セッションに参加した後の状態不安の変化を検討するために、STAIのState-Formを用いて、べ一スライン(セミナー14日前)、各セッション後、フォローアップ時(セミナー2ヵ月後)の不安状態を測定し、測定時期を要因とする1要因の分散分析を行った。その結果、ベースライン、および基礎編の後に比べ、実践編(2)の後の状態不安得点が有意に低かった(F[5/90]=3.61、p<.01;図1)。このことから、セミナー前とセミナー参加時点(基礎編)に比べ、セミナー終了時の状態不安が低くなっていることがわかる。また、フォローアップ時の状態不安はべ一スライン時に比べて有意でないものの低くなっていた。このことから、セミナー終了時に見られた状態不安の低下は2ヵ月後にも維持されていることがわかる。
 次に、患者の抑うつ気分の変化を見るために、気分調査票の「抑うつ感」下位尺度得点を用いて、抑うつ感がどのように変化しているか検討した。その結果、測定時期において各セッション後の抑うつ感は有意ではないものの、セッションを重ねるごとに低下し、実践編(2)の実施後にはもっとも低く、フォローアップ時にはべ一スラインより低くなっていることがわかった(図1)。このことはセミナー終了時点には、参加者の抑うつ感は有意ではないものの低下していることを示している。

 以上のことから、セミナー参加によって、状態不安と抑うつ感がともに低下し、セミナー終了時点でもっとも低く、フォローアップ時までセミナーの効果がほぼ維持されていることがわかる。これらの結果から、セミナーが状態不安をはじめ、抑うつ感の改善に寄与し、とくに状態不安の低減に効果的であったと言うことができる。

 2.特性不安と抑うつ傾向

 特性不安と抑うつ傾向がセミナーを通してどのように変化するかを検討するために、STAI Trait-FormとSDSを用いてセミナー前後とフォローアップ時に測定を行い、時期を要因とする1要因の分散分析を行った。その結果、時期の主効果は有意ではなかった。

 しかしながら、セミナー参加前に比べ、参加後には特性不安とSDSの両得点が低下し、セミナー終了時にはもっとも低く、フォローアップ時にその効果が維持されていることがわかった(図2)。このことから、セミナー参加によって、特性不安と抑うつ傾向は大きく変化しないものの、低減する傾向にあることがわかる。
 3.回避行動

 セミナーを通して患者の回避行動がどのように変化したか検討するために、セミナー前後とフォローアップ時にMIを用いて測定を行い、測定時期を要因とする1要因の分散分析を行った。その結果、同伴者がいる場合の回避行動が、セミナー参加前に比べ、セミナー終了時とフォローアップ時にともに有意に低減していた(F[2/45]=9.25、p<.01;図3)。このことは、セミナー終了時には同伴者がいる場合の回避行動が低減し、その変化がセミナー終了2ヵ月後にも継続して見られることを示している。一方、単独の場合の回避行動は、セミナー参加前より、フォローアップ時に有意に低減していた(F[2/45]=4.69、p<.05;図3)。このことは、セミナー参加によって患者が単独で行動する場合の回避行動が低減し、セミナー終了2ヵ月後までその低減が引き続いていることを示している。
 以上、本研究の結果をまとめると、(1)セミナーは状態不安と抑うつ感といった一過性の反応だけではなく、個人の持つ一貫した不安と抑うつの低減にも効果的であること、(2)セミナー参加によって、同伴者がいる場合と単独の場合の回避行動が減少することから、セミナーは回避行動の低減に効果的であることがわかる。これらのことは、本研究で実施された集団認知行動療法プログラムが回避行動の低減にもっとも有効であり、不安と抑うつの低減にも寄与することを示している。

 これまで、パニック障害に対するCBGTプログラムに関する研究では、プログラムの開発に関する研究が多く、プログラムの効果を検討したものは少ない。本研究ではパニック障害に対するCBGTプログラムを作成するとともに、その効果を実証的に検討した。本研究はこれまでの研究に欠けている知見を補うものである。

 本研究の結果からわかるように、CBGTはパニック障害の症状である不安と回避行動の低減に効果的であり、そうした症状の改善はフォローアップ時まで引き続き見られていた。基礎編で症状および症状への対処法について理解をはじめ、準備編で症状への対処法を身につけ、そして実践編でin vivo exposureを実施することによって不安と回避行動を低下させることができたと考えられる。また、患者はセミナー中に学んだ症状に対処するスキルをセミナー後にも活用でき、その結果症状の改善が持続しているということも考えられる。本研究の結果はこれまでの先行研究と一致し(APA、1998)、これまで示されているCBGTの有効性を裏付け、その治療効果を明らかにするものである。

 一方、回避行動と状態不安が有意に低減し、抑うつ症状が低減したもののそれほど大きく変化がないという本研究の結果を見ると、本研究で作成されたプログラムはパニック障害の症状である広場恐怖と不安の改善に寄与するものであると考えられる。また、フォローアップ時では状態不安とM00Dの「抑うつ感」の得点の上昇が見られたことを考えると、状態不安と「抑うつ感」は個人の置かれた状況に影響を受けやすいという特徴があるため、今後患者の置かれた状況を把握した上で、状態不安と「抑うつ感」の評定を行うことが必要であると考えられる。さらに、セミナー終了時までのドロップアウト(中断者)率は34.38%(32名の参加者中11名)であったのに対し、2ヵ月後のフォローアップ時における当初参加人数に対するドロップアウト率は50%(16名)であった。今後、パニック障害の二次的症状である抑うつの改善への働きかけを加え、フォローアップ時のドロップアウトの原因を明らかにし、プログラムの効果をより一層求めることが必要であると考えられる。

 最後に、Chosakら(1999)は、有効であると示された治療法の簡易版を開発することはヘルスケアにかかる経費の削減という現代的要請に答えるものであると指摘している。本研究で作成されたCBGTプログラムは4セッションからなる比較的簡便的なものであるため、治療者と患者にとって負担は少なく、治療コストを最小限にすることができるという利点があると考えられる。このように、CBGTの数多くの利点を考えると、今後、外来治療におけるCBGTの実施が期待される。
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陳 峻雯*
貝谷 久宣**
坂野 雄二*

*早稲田大学人間科学部、 Junwen Chen, Yuji Sakano : School of Human Sciences, Waseda University.
**心療内科・神経科 赤坂クリニック, Hisanobu Kaiya : Akasaka Clinic for Psychiatry and Psychosomatic Medicine.
精神療法, 28(3); 327-335, 2002