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病(やまい)と 詩(うた)【63】—アルツハイマー型認知症は感染症—(ケセラセラvol.109 大井玄)

東京大学名誉教授 大井玄

老年期に入ると、まずほとんどの人が、認知能力の衰えを感じるようになります。
認知症にはいくつもあるものの6、7割はアルツハイマー型認知症であり、加齢とともに増えていきます。

何年か前、日本老年精神医学会で松下正明東京都健康長寿医療センター理事長がアルツハイマー型認知症は老耄の現れであると述べた時、なるほどなと頷いたものでした。
アルツハイマー型認知症に見られる病理学的所見は、アミロイドβ蛋白が集まった老人斑(プラーク)、神経細胞微細管由来のタウ蛋白が重合した神経原繊維変化、そして神経細胞の変性と消失です。しかしこれは加齢とともに、程度の差こそあれ、どの脳にも認められるものです。
アルツハイマー型認知症の治療薬は、老人斑や神経原繊維変化の生成を阻止することを目的としたものが多く、現在まではっきりした臨床的効果の認められる例は皆無です。

パラダイム転換
昨年、松下哲著『認知症のブレインサイエンスとケア~アルツハイマー認知症は抗ウイルス薬で予防できる』を読んだ時の驚きは、自分の不勉強と無知についての想いの混ざった複雑なものでした。(以下アルツハイマー認知症と表記)
同書によれば、アルツハイマー認知症は、単純ヘルペスなどのスローウイルス感染症であるというものです。

現在パンデミックを起こしている新型コロナウイルスは、日の単位で発熱、咳などの症状を現します。しかしスローウイルスの場合、感染後何か月、何年、何十年もの潜伏期を経て症状が現れます。エイズを起こすHIVウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、成人T型白血病を起こすHTLV1ウイルスなどです。
医学の歴史では、それまで受け入れられてきた疾病解釈のパラダイムが、突然、変わる事例が見受けられました。

19世紀、英国でコレラが流行したとき、コレラは空気中の瘴気(ミアズマ毒気)により感染すると信じられていました。しかし外科医ジョンスノウ(1813~1858)は、A水道会社系統の井戸を使っている住民にコレラ患者が突出して多いのに気づき、その系統の井戸の使用を中止することを当局に申し出ます。井戸使用が禁止されると患者数は激減しました。
さらに別系統のB水道会社の井戸を使う住民には患者がほとんど出ないので、スノウは水道会社のテムズ川からの取水口の違いに注目します。A会社の取水口はテムズ川の下流にあったのに、B会社のそれは上流にありました。彼はコレラを発症させる病原体は、B会社の取水口とA会社の取水口の中間から出ていてテムズ川を汚染していると考えました。この疫学的病因探求は、ロベルトコッホによるコレラ菌発見の30年前になされたのです。

疫学的証拠
では、アルツハイマー認知症にスノウが見出したような疫学的知見はあるのでしょうか。それは人口の99.9%が国民健康保険に加入している台湾で観察されました。同国では2004年にカルテを電子化し、病歴を健康保険証のICチップに入れ、疫学調査を確実に、そしてし易くしました。
2018年、台湾のツェングらは、単純ヘルペスウイルスHSV感染症がアルツハイマー認知症を起こし、抗ウイルス薬で治療しておくと発症が予防できるという「決定的な報告」を発表しました(1)。
それは50歳以上の健康保険加入者33,488人の11年間の追跡調査です。非感染者25,086人にくらべ、新たなヘルペス感染者(PCRないし免疫グロブリンIgM陽性によって確認された)がアルツハイマー認知症を発症するリスクは、非感染者に比べて、ハザード比にして2.74倍になるというものでした。
ヘルペスウイルス感染後、抗ウイルス薬を投与されなかった1,147人(13.7%)と投与された7,215人(86.3%)の比較では、抗ウイルス薬を投与されていると、アルツハイマー病が大部分を占める(脳血管性認知症をも含む)認知症になるリスクは10分の1以下に減りました。この場合アルツハイマー認知症に限れば、ほぼ完全に予防されていると推測できます。
同様に、スウェーデンの単純ヘルペス感染を免疫指標によって確認した疫学研究では、観察年数11.8年後、感染者は非感染者の1.96倍アルツハイマー病を発症しており、フランスにおける同じ手法による研究では、観察年数14年間で、感染者は非感染者の2.55倍発症していました。

アルツハイマー認知症ヘルペス原因説を支持する根拠
松下の纏めたヘルペスウイルス原因説の根拠を、ごく簡略化して述べますと:
①ヘルペスウイルスDNAは高齢者の脳に常在し、ストレスや免疫力の低下で増殖を始める。
②ヘルペスウイルスは側頭葉内側・辺縁系という記憶に関与する部位に脳炎を起こす。
③ウイルスはニューロンに感染すると、その軸索を逆行し増殖する。アミロイド前駆体(APP)が細胞外に出されアミロイドβ沈着に至る。またタウ蛋白のリン酸化が起こり、タウ蛋白が結合する微小管の破壊が進み、神経原繊維変化(高度にリン酸化されたタウ)をもたらす。
④培養細胞に感染したヘルペスウイルスは、APPとリン酸化タウの蓄積をうながすが、抗ウイルス薬でそれを阻止できる。
⑤ヘルペスウイルス抗体価(抗体の量)と認知症の症状は並行する。
⑥アルツハイマー認知症は長らく炎症であることが認められている。
⑦アルツハイマー認知症の脳を他の霊長類やマウスの脳に注入し感染させることができる。
⑧前述したように、コホート研究でヘルペス感染症は、アルツハイマー認知症のリスクを高めるが、抗ウイルス薬アシクロビルで治療しておくと、発症が防げる。

コッホの三原則
コッホは、ある感染症の病原菌であるためには次の三原則を満たさなければならないとしました。①ある一定の病気には一定の微生物が見出される。②その微生物を分離できる。③分離した微生物を感受性のある動物に感染させて、同じ病気を起こすことができる。
前章の知見は、コッホの三原則を満たしているように見えます。さらに抗ウイルス薬により発症が防げるという、さらなる付帯事項が加わっています。

治療薬の効果とコスト
今まで製薬会社が造ってきた薬は、脳病理変化において認められるアミロイドβの集積した老人斑(プラーク)や、タウ蛋白が重合した神経原繊維変化の生成を妨げることを目的としてきました。乱暴に言えば、脳の老化において顕著にみられる有害なごみを除去しようとする試みでした。
先述したアデュカヌマブをはじめ、多くの薬品がつくられましたが、明瞭な臨床効果を示したものは皆無でした。米国食品薬品局(FDA)は、アデュカヌマブについては臨床的効果の替りに、実験室で証明可能な脳内アミロイド濃度を下げる「代理終点」に基づいて承認しました。
しかしアミロイドカスケード仮説が正しくないとすれば、明確な臨床効果が認められなかった理由が明らかになります。
さらに大きな問題は、きわめて高価なことです。製造元バイオジェンはアデュカヌマブの価格を1人、年に56,000ドル(約670万円)と発表しました。
日本の認知症高齢者数は、2025年には約700万人と推定されますが、その7割、490万人、つまり500万人近くがアルツハイマー認知症です。仮にその2割、100万人が同薬をつかうことになっても、6兆7千億円(ただし計算が合っているなら)になります。国民健康保険をそのような目的のために使う余裕があるでしょうか。
これにたいし抗ウイルス剤としては、アシクロビルなど有効で安価な薬品が開発されています。つまり予防と治療と費用における劇的なパラダイム転換と言えましょう。       了

文献
(1) Tzeng NS, et al Anti-herpetic medications and reduced risk of dementia in patients with herpes simplex infections- a nationwide, population-based cohort study in Taiwan. Neurotherapeutics
2018, 15:417-429

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