対人恐怖症



薬を服用することで、症状はかなり楽になります
 不安感や恐怖、心配などの心の症状や、震え、動悸、緊張といった体の症状は、適切な薬を服用することで、かなり改善されます。薬は、おもに3種類が使われます(下表参照)。うつ病の薬として開発されたSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という抗うつ薬は、対人恐怖症(社会不安障害)によく効き、緊張する場面でも不安を感じなくなる作用をもたらします。また抗不安薬には、緊張や不安をやわらげる作用があり、なかでも、クロナゼパム(薬名はリボトリール)は、対人恐怖症に効く薬として証明されています。さらにβ遮断薬といって、震えや動悸、発汗などの身体症状を除去する薬を、スピーチなど人前で何かをするときにだけ頓服として使うことで、状況に上手に対処できるようになり、自信を取り戻せます。

薬は症状がなくなっても、しばらくのみつづけます
 SSRlでは、のみはじめて効果があらわれるまで1〜2週間かかりますが、基本的にこの病気は、薬がよく効きます。ただし、症状がよくなってすぐに薬をやめると、再発した際に自信を喪失したり、落ち込みがひどくなりかねません。しばらくは薬をのみつづけることが大切。のみつづけても困った副作用が起こることはありません。むしろそれによって、不安のない健康な生活や行動パターンが身につき、安心して自信を取り戻せます。

認知行動療法などの心理療法によって、不安のコントロールの仕方を学びます
 薬物療法とともに、つらい症状は性格の問題ではなく、適切な治療で治る病気であることを認識することも大切。また心理療法のひとつである認知行動療法を併用して、物事のとらえ方を見直したり、恐怖場面に対処する方法を身につけることが役立ちます。前ページで紹介したソーシャルスキル・トレーニング(社会技能訓練)も、この認知行動療法のひとつの方法。そのほか、リラクゼーションや呼吸法など、不安症状が起きてしまったときの対処法を学んだり、暴露療法(エクスポージャー)といって、恐れる状況や場所に逃げないで臨むようにすることで、少しずつ不安を克服していく方法などがあります。


・・・ 対人恐怖症と間違えやすい病気 ・・・

甲状腺機能亢進症
 いわゆるバセドウ病と呼ばれ、甲状腺が肥大して、その機能が亢進する病気。甲状腺ホルモンが出すぎて全身細胞の新陳代謝が具常に高まり、頻脈や発汗、血圧上昇、不安感など、対人恐怖症と似た症状が生じます。治療には、甲状腺の働きを抑える薬を服用。腫れた甲状腺を切除する手術が行われることも。

パーキンソン病
 手や声の震え、体のこわばり、動きにくさなどの症状があらわれる原因不明の難病。パーキンソン病の人は、脳内物質のドーパミンが減少しやすいことがわかっており、そのために震えやこわばりが起こります。症状がよく似ていますが、パーキンソン病は「ドーパミン補充療法」によって改善されるため、見極めが大切。

家族性本態性振戦症
 本態性振戦症は、原因となる病気がなく震えが生じる病気。ふつう中年以降にあらわれますが、家族に同じ症状がある「家族性(遺伝性)」の場合、若い人にもみられます。じっとしているときには震えは出ず。ペンを持ったり箸を持ったりすると手が震える、人前で話をすると声が震えるなど、似た症状なため、見分けにくい病気。治療にはβ遮断薬が使われます。


・・・ 対人恐怖症と併発しやすい病気 ・・・

うつ病
 対人恐怖症が高じて引きこもり状態になったり、適切に治療がされないと、気分の落ち込み、過眠、疲労感、食欲の異常、集中力や意欲の低下などを主症状とするうつ病を併発しやすくなります。治療は抗うつ薬などの薬物療法、心理療法などが行われます。

バニック障害
 激しい恐怖感とともに、動悸や息切れ、頻脈、震えなどが起こる「パニック発作」が繰り返し起こり、発作がまた起こるのではないかという不安を抱える病気。対人恐怖があることで人前で失敗したら大変と思うあまり、電車の中などでパニック発作が起こり、パニック障害が合併するケースがみられます。治療は薬物療法や心理療法が用いられます。

強迫性障害
 戸締まりを何度も確かめないといられない、つり革などにさわれず、外出から帰ると何度も手を洗う、などの行動を繰り返してしまう病気。理不尽な行動だとわかっているにもかかわらず、繰り返してしまうつらさを抱えています。きちょうめんで完璧主義の人が多く、人前で失敗したくない対人恐怖症の性格特微に近似します。治療は抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法が行われます。

アルコール依存症
 対人恐怖症の人では、アルコールを飲むことで対人場面での緊張を解消しようとする場合があり、その場合、アルコール依存症を併発しやすくなります。アルコール依存症の治療では、ダメージを受けた体の治療を含めた薬物療法とともに、体験者どうしによる集団療法や家族療法などを含めた心理療法的アプローチが必要です。