マインドフルネス 蓼科リトリート体験記 2
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そんなときでした。突然、70歳台後半の父親の体調が極度に悪化しはじめました。健康だった父は、突然、自分だけでは歩けなくなり、車椅子での通院が必要となりました。田舎の両親から、私は、父の通院を手伝ってほしいと頼まれ、父を病院に診察に連れていくことになりました。4~5件、病院を回ることとなり、最終的に、ステージ4の末期癌と診断されました。これ以上、治療は出来ませんと宣告され、緩和ケア病棟に入院せざるを得なくなりました。父としては、末期癌であっても、最期の最期まで直すつもりで、本人なりの数か月の闘病生活となりました。週末中心に週2回、父の病院へ行きました。そして、段々、身動きを取ることが困難になってくる、父の介護・看病を手伝いました。約3か月、父は闘病生活を続けましたが、最終的に他界し、葬儀、各種後処理などが父の他界後に続きました。
それも数週間で落ち着きました。気づいたら、約4か月間、折角、身につけはじめた、マインドフルネスの実践がなおざりとなっていました。葬儀等が落ち着いた後、また、朝起きれない日々がはじまりました。この約10か月間、私は何をやっていたのだろうかと落ち込みはじめた。そんな矢先の蓼科リトリートでした。
さて、蓼科リトリートでは、まず、初日に、蓼科の宿泊先に到着し、その建物を見た途端に、何か大きなインスピレーションを感じました。何にインスピレーションを感じたか、後に判明することになりますが、当初は分かりませんでした。
宿泊先の建物は、元芸能人が所有していた築年数が20年以上のペンションで、元々、ペンションなので、個室がたくさんあり、1部屋で2名ないし4名泊まれる部屋です。これに全員1人1部屋で泊まりました。また、全室トイレがついていました。ウォシュレットに変えたばかりだそうで、とても綺麗な新品状態でした。トイレ掃除も含め、部屋の掃除を最終日に行いましたが、我が家のトイレと比較すると、私が3日間使用したことがはじめてのトイレのようで、ほとんど汚れらしい汚れがない位、とても清潔なお部屋でした。
初日のカリキュラムは、ガイダンスで諸注意事項をご説明頂いたあと、貝谷先生の奥様のご指導による、生花を花瓶に活けることからスタートしました。これが、男性の私は、普段、かようなことはやらないので、とても新鮮!20種類位の花から自由に自分が活けたい花を選び、花瓶に活けました。各々、思い思いに花を活けたあと、奥様から、ご子息の40年位に亘る障害筋ジストロフィー者人生を語って頂き、涙が出そうになりました。ご子息は、ご自身の運命を一度も卑下したことはなく、運命をそのまま受け入れ、ご自身の出来ることを行っており、10月10日祝日にご子息主催の障がい者の自作自演のゴールドチャリティーコンサートを企画なさっていると伺い、驚きと共に、奥様と私と同世代のご子息への敬意の念を禁じえませんでした。生花を活けた花瓶は、各自、おのおのの部屋へ持ち帰り、3日間、部屋を彩ることとなります。これが、とても良かった。
その後、庭を散歩しました。そこで、時期柄、蝉の抜け殻を多数見つけました。良く見ると、蝉の抜け殻は、とても堂々としていて、カッコいい。それを手に取って眺めると、蝉の抜け殻は、通常だと、「空っぽ」の意味に取れるかもしれません。「空っぽ」とは、中身がない人間とか、良い意味ではないかもしれない。ただ、私は、その「空っぽ」を「空」ではないか。仏教で言う、欲望から解放された「無欲」ないし「無心」の状態と意味付けし、さらには、「脱皮」、つまり、「一から生まれ変わる」、という意味に捉えました。
一度、身につけはじめた、マインドフルネスに固執せず、初心に帰って、当初、主治医の先生がおっしゃって下さった、「マインドフルネスは単なる治療効果だけではない。生まれ変わって人生を変えるんだ」の一言を思い出し、今回のテーマは、やり直しではなく、再度、一からはじめるというではないかと考え、この蝉の抜け殻が象徴的であると感じ、部屋へ持ち帰りました。この蝉の抜け殻、部屋で眺めれば眺める程、勇ましい。虫や鳥、植物など、自然が我々人間に教えてくれる。そんな一例です。
蓼科リトリートでは、いつものように、毎日ヨガと冥想を行うのですが、天気の良かった初日と3日目は、ペンションの1階、庭先にある、広い板の間の上で、ヨガを行いました。ヨガのカリキュラムは、赤坂クリニックのビル8階 赤坂マインドフルネス・センターにご参加されたことのある方ならご存知のおなじみの内容です。胡坐の状態から身体感覚を感じ、足首を回し、手首と足首で握り合い、足を延ばし等々、足が完了したら、腰、体幹部、首、バランスのポーズと順番に身体の各部位をほぐし、最後に、死体のポーズ、シャバーサナで締めくくる内容です。
緑に満ち溢れる、山奥の大自然。虫と鳥が鳴く中、マイナスイオンに包まれ、心地よい。いつも、シャバーサナでは、目をつむり、ゆっくりと身体がリラックスしていく様子を味わうのですが、今回だけは、目を閉じるのが勿体ない。草木、青空、雲の動きなど大自然を眺めながら、身体のリラックス感のみならず、自然に溶け込む感覚を味わおうと試みました。マイナスイオンの空気の味、虫の音、鳥の鳴き声、地上1000m以上の高山の空気が薄い感じ、気温25度位でしたでしょうか、都内の30度を超す灼熱地獄と異なる、ひんやりした感じ。とても気持ち良かったです。ガイヤ。愛に溢れる大地、地球と、天空広がる、青空、その先の宇宙。。。我々人間とは、地球と宇宙の間にいる存在。。。そんな壮大なことも実感できる蓼科の大自然、屋外でのヨガ。。。最高でした。。。
お風呂は、毎日夕方、近くの温泉に行きました。ゆっくりと温泉に浸かり、リラックス。私は2日目の温泉が、少し奥まった場所にあり、秘湯っぽくて、とても好きでした。2日目は、ほぼ終日、雨が降り、霧がかっており、まさに、幻湯。。。仙人が出てきそうな感じ。そんな中で、貝谷先生、洋介先生、男性参加者の方々と裸でお付き合いさせて頂きました。詳細は記述できませんが、日頃、お話を伺えないような内容も教えて下さり、とても勉強になりました。
坐禅は、ペンションの中で行いました。曹洞宗の方式で、壁に向かって、実施しました。曹洞宗流、約40分の1柱?目(柱の漢字は本来、火辺)を坐りました。就寝時間は夜22時位、起床は早朝6時45分で、朝7時にヨガからはじまります。睡眠時間がたっぷりあり、ゆっくりできます。私は、睡眠時間が勿体なく感じ、就寝前、大体40分~1時間、朝も20分~1時間は部屋かベランダで坐っていました。この習慣を東京に戻ってからも続けたいと思っています。
就寝時間前に、ビデオ観賞会を行いました。初日の夜は、ティク・ナット・ハン師のNHK特集、テーマが戦争についてで、前後半ある前編のみ。2日目の夜は、NHKのスーパープレゼンテーション、ハーバード大学で最も長期に亘る、70年以上の研究テーマである「幸せについて」。ご覧になられた方々も多いかと思われます。ティク・ナット・ハン師のビデオは、私が4か月前から赤坂クリニックで貸し出して頂くことをお願いしていたのですが、見ることが出来ませんでした。その意味が当日分かりました。今回の蓼科リトリートで8名の素晴らしい方々とみる為に、神様がとっておいてくれたのだと。
ティク・ナット・ハン師のビデオの中で感銘を受けた点は多々ありましたが、そのうち、今回の蓼科リトリートで、特に感動した点をいくつか記述させてください。
ティク・ナット・ハン師はベトナム人です。ビデオの中で、ベトナム戦争当時、彼の高弟が身を以て反戦を示す為に、大衆の前で、坐禅をしながら、油をかぶり、涼しい表情で焼身していく映像が登場しました。ティク・ナット・ハン師がそのことにショックを受け、数か月間、怒りからうつ状態となったそうです。毎日毎日歩行冥想を行い、怒りを鎮め、うつ状態から回復したとのことが紹介され、とても驚きでした。更に、彼の親友である、マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺されたときも、数か月間、ショックのあまり病気になったと。
あれ程の高僧である、ティク・ナット・ハン師が落ち込んで崩れることがある。そして、冥想などマインドフルネスの実践によって、そのたびに何度も、一からつくりはじめ、立ち上がって回復している。あ~、我々、凡人、凡夫は、いわんをや、である。このことに気づかせてくれたのは、ビデオ鑑賞後のシェアリングです。シェアリングの席上、聡明なひとりの参加者が皆に発言してくれたのです。私にとっても、今回の蓼科リトリートのテーマが、「一からつくりはじめる」でした。彼が言うには、何度でも、失敗して、落ち込んでいいんだと。また、一からはじめればいい。ティク・ナット・ハン師でさえ、そうなんだ。勇気を頂きました。
素晴らしい8名の参加者の皆さんとビデオ鑑賞しないと、明確に、こんな素晴らしい気づきを、私は認識できなかったかもしれません。
もうひとつ。私は、ティク・ナット・ハン師の書籍を5冊は拝読していました。怒りと恐怖は同じであるという点は伺っておりました。これは、冥想によって、消し去ることは出来ないが、冥想によって、怒りと恐怖を優しく抱きしめ、慈悲の心に変容できると説いている点も知っていました。しかし、怒りと恐怖を優しく抱きしめとは、どうやるんだろうと、ずっと疑問でした。しばらく、そのことは忘れていたのですが、今回、ビデオでも、ティク・ナット・ハン師は、そうおっしゃっており、改めて、その疑問点を思い出しました。最終日、3日目の朝、そのときが来ました。
洋介先生の2歳になるご子息が、早朝、ヨガを行っている際に、インストラクターの洋介先生のところへ遊びに来ました。普通、お父さんが職場でお仕事をしているとき、子供が遊びに来たら、父親はあっちへ行けと怒ります。ところが、洋介先生は、いつもより多めの汗をかきながらも、ご子息のことを怒鳴りもせず、器用に、ご子息を優しくご自身の膝の上に抱えて、我々へのヨガの指導を継続なさいました。あ~、これだと。。。ご子息は怒りと恐怖。怒りと恐怖である、我が子を膝の上に抱きかかえるようにすればいいんだ。私自身の心の膝の上に、私の怒りと恐怖を、まるで幼き我が子を抱きかかえるように抱きかかえればよいのだと。。。
もし、自宅で、ひとり、ティク・ナット・ハン師のビデオを鑑賞していたら、こんな気づきと学びを得ることは出来ない。まさに、集団で実践するリトリートの凄さを実感した瞬間でした。小さな先生に感謝です。
2日目の午前、貝谷先生の講義がありました。コスモス・セラピー。宇宙は無であり、無限である。すべてはつながっている。2を10回乗じると1000人超える。10代前にさかのぼると先祖が1000人以上。平安時代までさかのぼると、全員、親戚。命のリレー。皆、つながっているんだ。宇宙の年齢138億年。その雄大さと比較すれば、悩みはちっぽけ。おおらかに生きよう。そんな内容であったと思います。参加者一同、勇気つけられました。その後、散歩に行きました。大雨の中でしたが、森林浴を楽しめました。
2日目の夕飯は、貝谷先生の奥様の手料理でした。とても心がこもっていて温かいミートソースパスタでした。普段、私は、とあるスポーツをやっている関係上、体重を一定水準以下に維持するため、ダイエットをしており、炭水化物は控えめにしています。しかし、余りに美味しく、パスタをお代わりしてしまい、2皿を頂戴してしまいました。奥様、本当に有難うございます。帰京後、調整し、なんとか元の体重に戻しました。
その2日目の夕飯後、宿泊先の建物は元ペンションらしく、大きな暖炉が1階にあり、これを利用して、ファイヤーフェスト、つまり、護摩焚きを行いました。具体的には、各自、願いや念い、怒りや恐怖、不安事などを紙に好きなだけ書き、願いや念いは叶うように、怒りや恐怖、不安事は消し去るように祈りながら、その紙を燃やす。
実は、私は、友人から、私が嫌いな人の頭にくる点や、その罪状をくどくどと紙に書き、燃やして、灰を川や海に流すと、その怒りや恐怖が消える効果があると伺い、1か月位前に、約60ページに亘り、私の嫌いな13名の事をくどくどと紙に書き、自宅近くの運河の脇で、夜中の1時位に燃やし、その灰を流し去りました。ところが、その結果、私の怒りと恐怖が消えるどころか、却って、心の中に隠していた部分まで、全部出てしまい、気持ち悪くなり、体調がひどくなりました。私の友人にそのことを相談すると、それは、完全に消え去るまで、何度でもやるといいと言われていました。ただ、一度、実施して、体調がおかしくなったので、2度目は、私だけでは実施する勇気がございませんでした。今回の護摩焚きは千載一遇のチャンス。紙に書く時間が確か40分位しかなかったので、60ページも再度、紙に書く時間がなかったですが、その時間内で、6枚位に要約して書き上げました。夢やお願い、念いも4枚にまとめて追加し、全部、紙飛行機に折って、暖炉に投げ込み、焼き尽くし、焼き尽くす間中、必死に祈祷しました。その甲斐あってか、嫌いな13名が6名に減って、7名に対する怒りが消えたように感じることが出来ました。これも、リトリートならでは、と実感しました。
2日目の夜は、とても実りが多い。これだけではなかったです。

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